第29話 勇者VS英雄
勇者が戦場に現れた。
それはドレイクにも感じられていた。
戦場の雰囲気というのか、敵兵から伝わってくる勝利の空気感。
まだ戦いは終わっていないというのにこんな雰囲気を感じられるのは、絶対の信頼からくるものだろうとドレイクは感じ取っていた。
「勇者が出てきたか……お前達は雑兵の相手をせよ。勇者は儂が迎え討つ」
「ドレイク様、単騎で勇者と刃を交えるのは危険かと。我々も微力ながらお力添えさせて頂ければ――」
「ならんぞ……分かっておる、勇者は強い。儂でも恐らく勝てんだろう。だからこそお前達には離れていて貰わねばならんのだ」
何故なのか、そう表情で訴えかけてくる隊長にドレイクは微笑むと話を続けた。
「戦争とは指揮する者が退場した時に勝敗は決する。つまり、儂が敗れた時お前達は白旗を上げよという事だ」
「できません。我々の後ろには守るべき民がおります」
「安心せよ。あの女王が戦場に出てきておるのだぞ?悪いようにはせんだろう。あくまで求めるものは王国の土地。追い出そうとはするが虐殺をしようなどとは思っておらんはずだ」
ルクレティアの性格は分かりやすい。
王族足り得る器を持っており、無意味な殺生を嫌う。
たとえ敵国の街を占領しても虐殺行為は絶対に容認しないだろう。
ただし抵抗すればその限りではない。
ルクレティアは自国の民や兵士が失われるような事になれば、行動は苛烈になる。
「無駄な抵抗などしなければ問題はない。後は任せたぞ騎士隊長」
「……ハッ。ご武運を」
ドレイクに一瞬だけ反抗心を見せた騎士隊長だったが、諭され渋々ながら彼に従った。
ドレイクが馬に跨ると、歓声が上がり英雄の出陣に王国兵は心躍らせる。
やがて戦場に一時の静寂が訪れた。
自軍の兵を背後に、戦場中央にてエミリアとドレイクが相対した。
「儂はドレイク・ミストルティン。剛剣の名を授かった騎士である」
「私はエミリア・テンプルトン。天嵐の勇者と呼ばれています」
ドレイクから見たエミリアは、見目麗しい女性であった。
さらりと金髪を靡かせ、白馬から降りた彼女は勇者と言うに相応しい雰囲気を纏っていた。
「エミリア殿か……佇まいから強者と見た。貴殿とはできれば友軍として出会いたかったものだ」
「それはこちらも同じです。貴殿こそ剛剣とまで呼ばれた英雄だと聞いております」
英雄という言葉にドレイクはむず痒そうに顔を背けた。
年老いた自分など英雄と言うに相応しくない。
常々そう思っていたが周りがそう呼べば、何も言えなかった。
英雄と持て囃され、剛剣とまで呼ばれたドレイクは既に王国最強の騎士という座から降りている。
剣聖ランスロットのような本物の天才が現れた以上、努力の剣であるドレイクは身を引かざるを得なかった。
国王の目の前で決闘した時それを十分理解した。
まだランスロットが12の時であった。
王国最強の騎士を決める決闘で、剛剣ドレイクは天才剣士と出会った。
まだそれほど年老いていないドレイクは全盛期程ではないが、近しい実力があったにも関わらず、ランスロット相手に手も足も出なかったのだ。
ドレイクには天性の才がなかった。
何十年にも渡る努力の結晶であり、たかだか数年剣を振るった事のある少年に完膚なきまでに敗北すれば心折れても仕方がない。
敗北を期に最強の座から降り国境守護だけに注力する事にした。
ランスロットが剣聖の名を授かったのはその後すぐであった。
「正直に言おう。儂は勇者に勝てると自惚れているわけではない」
ドレイクは背負っていた大剣を抜き放つと剣先をエミリアへと向ける。
「しかし儂には守るべきものがある。故にこの命、散らしてでも貴殿を食い止めさせてもらおう」
ドレイクの顔つきは険しく、殺意を彷彿させる表情をしていた。
それを見てかエミリアも腰の剣を抜き剣先をドレイクへと向けた。
「剛剣……どれほど勇ましい剣であっても私は全てを斬り払います。お覚悟を」
「フハハハッ!勇ましい剣……か。そうだな、儂の剣は軽くはないぞ?その細腕で受け止められるかね」
「私の速さに追いつけるのであればどうぞ」
お互いに構え、ピタリと動きを止める。
相手の出方を伺っているわけではない。
ただ、数度剣を交えれば戦いは終わる。
それが分かっているからこそ、お互いタイミングを計っていた。
「勇者エミリア!我が大剣ドミニオンを侮るなかれ!いざ!参る!」
「剛剣ドレイク……天をも穿ち、嵐のように暴れる宝剣レーヴァテインの一撃、その身に受けてみよ!」
極限まで強化した脚を一歩踏み出すと風を置き去りに、エミリアがドレイクへと迫る。
ドレイクもその場で踏ん張ると、大剣ドミニオンの剣先を空へと掲げた。
「大地崩壊!」
掲げた大剣を振り下ろすと地面に亀裂が奔り、石礫と共に衝撃波がエミリアへと襲い掛かった。
「天をも穿つ嵐撃一閃!」
暴風を纏いながら縦横無尽に駆け回るエミリアは、ドレイクの放った技を軽々と躱す。
しかしドレイクの技はまだ終わりではなかった。
「空中に逃げれば躱せると思うたか!爆ぜよ!」
衝撃波により粉々に砕け散った地面が隆起すると、石槍がエミリアを貫かんと無数に突き出てきた。
エミリアはその身に迫る石槍を足場にし空中を駆けた。
「曲芸師か貴殿!」
ドレイクも堪らず声を荒げる。
まさか高速で飛来する石槍を足場にするなど予想もしていなかった。
風と一体になったエミリアは空中で突きの構えを取った。
「私の技もまだ終わっていませんよ」
空中から勢いよく放たれた突きは風の刃を思わせる鋭利な牙となりドレイクの足を貫いた。
ドレイクは痛みを堪えながら次の攻撃モーションに移る。
「この程度ッッ!剛撃裂波!」
強烈な剣圧を飛ばすとエミリアは空中にいたせいで態勢を崩した。
その隙を逃す筈もなく、ドレイクは畳み掛ける。
「受け止められるものなら止めてみよ!風刃斬撃!」
「ッッッ!?」
ドレイクの技は一撃一撃が重いものとばかり思っていたエミリアは、素早い斬撃を躱すのがほんの少し遅れた。
ギリギリ回避は間に合ったが、鎧の脇腹辺りには若干の斬撃跡が残っている。
後一秒躱すのが遅ければ胴体は真っ二つに裂けていた事だろう。
「やはり一筋縄にはいかんか……」
今の一撃は確実に殺しきれる威力だった。
しかし速さに特化した勇者を捉えることは難しく、鎧に傷をつける程度に終わってしまった。
太ももは血に塗れ、もうまともに動かす事も難しい。
ドレイクは口元を歪め、勇者という存在が常識外にあるものだと再認識させられていた。
「投降をお勧めいたします」
エミリアはそんなドレイクの様子を見て構えを解いた。
傷を負いながらも全力で技を放った為にドレイクの出血量はおびただしい。
これ以上の戦闘は無意味だと暗にそう伝えていた。
「儂に恥をかかせるつもりか?エミリア殿。騎士たるもの決闘はどちらか一方の命尽きるまで戦うものだ。貴殿の世界では違ったか?」
「……いえ、同じです。無礼を働き失礼しました。貴方は今まで剣を交えた相手で一番強い。次の一撃は私の最大威力の技でいきます」
「クックック、それで良い。敵に情けは無用……まだまだその辺りは小娘だな」
エミリアは姿勢を正すと小さく頭を下げた。
ドレイクはまさに騎士の中の騎士。
戦いの中で果てるつもりだと、彼の覚悟を汲み取ったエミリアは自身の放てる最高峰の技をお見舞いするつもりであった。
「さて、儂の生涯最後の技をお見せしよう」
ドレイクが足の痛みも厭わずに大剣ドミニオンを上段で構えた。
既に勝負は決している。
ここからどうあがいてもドレイクに勝ち目などなかった。
それは観戦している王国法国の兵士にも分かるほどに。
出血が激しくドレイクの足元には血溜まりができており、エミリアは涼しい顔で立っている。
誰が見ても勇者の圧勝であった。
その時、2人の視界の端で何かが光りお互い反射的に視線をそちらへと移す。
そこには空一面に広がる無数の魔法陣が浮かんでいた。
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