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第28話 剛剣ドレイク

「やはり一筋縄ではいかんか……」

ルクレティアは王国からの攻撃に顔を顰める。

ドレイクは自身の剣の腕だけでなく、指揮能力も高い。

戦場ではドレイクを見掛けたら退却せよと言われるほどであった。


「蹴散らしますか?」

「いや、エミリアはまだだ。……魔導士隊、あれを放て」

エミリアが剣の柄に手をかけ話しかけてきたが、ルクレティアはそれを手で制した。

エミリアが出れば弓矢など簡単に蹴散らせるが、こんな初動で彼女の力を見せるのは悪手だと判断していた。


勇者に頼らずともルオール法国には十分強力な手札があった。


「魔導士隊、準備完了です」

「やれ」

部下にそう命じるとルクレティアはほくそ笑む。


「ドレイクめ、見ておれ。妾が無策で出てくるわけがなかろう」

ルクレティアが命じたのは数百人規模による大魔法であった。

広範囲に放たれる大魔法は戦場での切り札ともいえる手札であり、ルクレティアは出し惜しみせず一気に戦場の風を追い風に変えるつもりであった。


魔導士隊が魔法を詠唱すると空に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

黄色と青の魔法陣はゆっくりと回転を始めると、雷雲が立ち込める。



魔導士隊のリーダーが両手を掲げ魔法名を唱えた。

「|海神より放たれし霹靂千牙ライトニングポセイドン!」


雷鳴が響くと共に大嵐のような豪雨が降り注ぐ。

海をひっくり返したかのような豪雨に王国軍は狼狽える。


雷の性質上、水分を含んだ服や地面は電気を帯びる。

雷雲の怖いところはそこにあった。


湿った地面にびしょ濡れになる騎士や魔法使い達は空を見上げ絶望的な表情を浮かべる。

静電気が発せられると髪の毛は逆立ち、せめてものと盾を頭上に掲げる者も出ていた。




轟音が爆ぜると幾千本もの稲妻が天から降り注いだ。

狙いすましたかのように王国軍の兵士を一人ずつ貫いていく雷撃は、その数五千。


つまり、五千の王国兵の命は瞬きする間に失われたのだ。


倒れ伏す黒焦げになった兵士を眺めドレイクは歯を食い縛る。

魔法の使えないドレイクには彼らを救う手立てはなかった。


無情にもドレイクの動揺は兵士達にも広がっていく。

数も少なく兵士達の練度も劣るドレイクの軍は、戦意だけ高くなんとか持ち堪えていた。

しかし、ここにきてその戦意すらも失われかけている。


「恐れるな!二度目は無いはずだ!奴らはここで切り札をきった!ならば次はこちらの番。爆薬樽を転がし火矢を放て!」

ドレイクはここぞという時用に集めていた火薬を全て使い切るつもりで樽を用意させていた。

人間大の大樽が転がって来れば、騎馬隊は隊列を崩す。

中に何が入っているかなど分からずとも自分達を害する物である事は理解していた。


すぐに大樽から距離を取ろうとするルオール法国の騎馬隊だったが、火薬を詰め込んだ樽が爆発すれば多少の距離など関係なく被弾する。


空を赤く染めながら迫りくる火矢は死出への(いざな)いであった。


火矢が射掛けられると爆薬樽は爆風を巻き起こし炸裂する。

樽の中には火薬だけではなく釘や鉄の破片も一緒に入れられていた。


高速で飛来する釘が馬の身体に刺さると、(いなな)きと共に前足を大きく上げる。

当然馬上の騎士はバランスを崩し落馬していくが、それを別の馬が撥ね被害は更に拡大していった。


悲鳴がドレイクの元まで聞こえてくると、部下に次の指示を飛ばす。


「魔法師団と弓兵は攻撃の手を止めるなよ!奴らに時間を与えるな!」

大暴れする馬を抑えようと騎馬隊の騎士達は右往左往するが後詰の重騎士隊がそれを許さなかった。


重騎士隊は大盾を持ち身長の2倍はあろう大槍を前に構え一気に駆け出す。


落馬した騎士は地鳴りのような音と共に迫りくる味方の重騎士隊に轢き殺されていく。



重騎士は装備は言わずもがな、全て重量がある。

それが全速力で駆けてくるのだから、轢かれた者は内臓をぶちまけ死に至る。


王国から矢継早に行われる攻撃も大盾で防ぐと徐々に距離を詰めていった。



「味方ごと殺すだと!?狂っているぞ……ルクレティア女王!」

ドレイクは味方を味方と思わぬ行動を取るルクレティアに強い憤りを覚える。


「これ以上の攻撃は無駄か……攻撃止め!」

重騎士の大盾は生半可な攻撃では貫けない。

矢継早の攻撃など無駄だと分かるとドレイクは部下に手を止めるよう伝えた。


「重騎士を前に出し我々の攻撃を無効化したつもりかもしれんが、儂の騎士団は伊達ではないわ。我がミストルティン家が誇るお家芸、とくと見よ!全騎士、抜剣!迫りくる猛威をその刃で切り拓け!」

ドレイクが大剣を構えると、全ての騎士が剣を抜いた。

弓兵までもが腰の剣を抜き放つ。


魔法師団は彼らにバフ魔法をかけると、いよいよ突撃態勢が整った。


「敵は眼前にあり!突撃ぃぃぃ!」

「「「「「ウォォォォ!」」」」」

雄叫びを上げながらドレイク達は重騎士隊とぶつかり合う。


重騎士は防御力こそ圧倒的だが、重量のせいで鈍足になる。

身軽なミストルティン騎士団の攻撃を一身に受けると、盾に無数の傷が入り鎧は徐々に削られていく。


鎧の耐久力が限界を迎えると、パージするかのように破損しバラバラに散る。

そうなれば騎士団の格好の餌食である。


左右上下とあらゆる角度から斬撃が飛び、重騎士は息絶えていく。


もちろんそううまく連携がハマらず、重騎士による一撃をその身に喰らい身体を真っ二つに裂かれる騎士もいたが、戦況は優位にあった。


ドレイクだけは大剣を振るうと、重騎士の盾ごと斬り裂く。

1人で数人の重騎士を相手取り、余裕すら感じさせる笑みを浮かべていた。



「フハハハハ!この程度の盾で!鎧で!儂の剣を防げると思うなかれ!」

凄まじい腕力から放たれる大剣の一撃は、重量級でかつ速い。

避けることなど叶わず、重騎士は盾で防ごうと構えるが何のこれしきとドレイクの大剣が真っ二つに斬り裂いた。


「ドレイク様に遅れを取るな!ハァァッ!」

騎士団を纏め上げる隊長が気合いの入った剣閃を見せると、部下達の士気は更に上がっていく。




重騎士隊およそ千人。


数十分足らずで彼らの命は散っていった。



前線の状況報告を受けたルクレティアは渋い顔を見せる。

あれだけの大魔法を披露したにも関わらずドレイク率いる王国兵は恐れていなかった。

ドレイクという存在がやはり大きいと感じたルクレティアは横にいる勇者へと視線を移した。


「エミリア、そろそろ出番だ」

「私が相手をするのは剛剣ドレイク殿ですね?」

「うむ。負けるとは到底思っておらんが決して侮るなよ。あれは人間の到達できる頂きにいると思え」

「心してかかります」

ドレイクは年老いたとはいえ、前線の報告を聞く限り腕は衰えていないように感じた。

ルクレティアからすればまさしく脅威であり、脅威には脅威をぶつけるべきだと判断したのだ。


「勇者の初陣だ!道を開けよ!エミリア・テンプルトン、存分に暴れてこい」

「仰せのままに」

エミリアは片膝を突くとルクレティアへ(こうべ)を垂れた。

元の世界で騎士であったエミリアの所作に淀みはない。


白馬に跨るとエミリアは勢い良く出陣する。

勇者が出てこればこの戦い、勝ったも同然。

そう思っている法国の騎士達はエミリアの出陣を両手を振って喜んだ。



勇者エミリアの為に開かれた道は真っ直ぐに、ドレイクのいる場所まで続いている。

一直線に駆けていくその様を見て、誰かが白騎士と呼ぶ。


その言葉にエミリアは苦笑いを浮かべた。


白騎士とは元の世界で呼ばれていた二つ名だ。

世界が変わろうと呼ばれ方は変わらないのだとエミリアは少し面白く感じた。



新たに手に入れた力をいよいよ実戦で使う時が来た。

エミリアは抑えきれない高揚感に、微かに口元が笑っていた。

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