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第20話 帰ってきた無名

本日快晴。

何でもない一日の始まりだが、無名にとっては違った。

今日遂に謹慎処分が明ける。

王城へと転移した無名を出迎えたのは召喚した時にも顔を合わせた第一王女ラクティスだった。


「おかえりなさいませ神無月さん。フラン殿との訓練は如何でしたか?」

「とても有意義な時間でしたよ」

半年間というそれなりに長い期間であったが、久し振りに見た無名の身体は引き締まっていた。

ラクティスは少し驚きはしたが、顔には出さない。


「どうやらそのようですね。お父様がお待ちですので謁見の間へと来てもらえますか?」

召喚された時と同じ大広間へと転移した無名を伴いラクティスは謁見の間へと足を向ける。

会話という会話はない。

元々無名はあまり喋るタイプではなく、ラクティスも無理に会話を広げようとはしない。



謁見の間へと入ると無名が片膝をつき頭を下げた。

礼儀は弁えているのか謹慎処分について文句を言う様子はない。


「戻ってきたか無名殿。深き森はどうであった?」

「魔物は多く来る日も来る日も魔物と師匠と戦う日々でした」

悠久の魔女からの指南など想像できないが、無名の表情が歪むくらいは厳しかったのだと周囲の者達は予想する。


「深き森の魔物は強力な奴が多いからな……まあ無事戻ってくれて良かった」

「いえ、こちらこそ身勝手な振る舞い、失礼いたしました」

無名が反省の意を示すとクライスも満足げな表情を浮かべる。

200人前後の王国兵を殺した罪は重いが、無名もあの選択は間違っていたと考えたのか申し訳なさそうな顔で謝罪する。


「仲間であるはずの騎士や魔導士、冒険者をこの手に掛けてしまった事は大変申し訳ございませんでした。ただ……あの時は最善の選択だと思っていましたので」

「人は誰しも間違いは犯すものだ。それが勇者であろうとな」

国王であるクライスが許すならば周囲にいる貴族や騎士達も無名を無下には扱えない。

つまり、無名は絶対に安全な地位へと移ったのだ。


ここで反省の意を示し謝罪の言葉を述べていなければ、それこそ闇討ちに遭ってもおかしくはなかった。

それだけの数、騎士達を殺したのだから。


仲間や身内を殺された恨みはそう簡単に消えるものではない。

渋い表情ながらも騎士達は受け入れていた。


無名は性格に難はあるが、勇者としての実力は高い。

魔国やリンネ教といった目に見える敵が現れた以上、無名の反感を買うことは得策ではないと考えたのだ。



「無名殿、単刀直入に聞こう。今の君ならば魔国を相手にしても互角以上に戦うことが出来るか?」

「はい。この王城内と限定するのであれば今の僕に勝てる者はいないと思います」

「ほう?これは大きく出たものだ。それは剣聖や魔法師団長を前にしても同じ事を言えるのか?」

「当然です。ただ……師匠と比べられれば些か劣りますが」

無名が師匠と呼ぶ者など1人しかいない。

悠久の魔女フランである。

そもそもフランは世界最強の魔法使いであり、比べる事すら烏滸がましいのだが、無名はそんな彼女と比べれば劣ると表現した。



自信過剰にも程がある。

クライスはそう言ってのけたかったが、目の前で真剣な表情を浮かべる無名を見ればそうも言っていられない。

無名の身体から漏れ出る魔力は爵位級魔族と並び立っており、一概に自信過剰ともいえぬ雰囲気を纏っていたからだ。


「陛下、発言許可を」

一人の男が壁際に立っていたが、前へと一歩踏み出しそう言った。

クライスは彼に無言で頷くと、男が話を続ける。


「彼は我々魔法師団を舐めているとしか思えません。確かに強大な魔力を手にしたようですが、所詮は付け焼き刃。流石に先程の言葉は見過ごせません」

「ふむ、まあ言わんとする事は分かる。それで、どうするつもりだ?ロルフ」

ロルフと呼ばれた男は無名を睨みつけると、手袋を彼へと投げ付けた。


「拾うといい無名殿。それを拾えば私と決闘する事が出来る。今この場にいる者全てが貴殿の言葉が癪に障ったはずだ。貴殿への風当たりは厳しいものになるだろう。しかし、私との決闘にてその力を十全に発揮したのならば周囲の目線も変わる」

ロルフは怒りの感情に任せて手袋を投げ付けたわけではなかった。

これは無名にとって益のある行為。

どうあっても無名への風当たりはキツくなるのが目に見えていたロルフは少しでも緩和してやろうと手を差し出したのだ。


魔法師団副長でもあるロルフ程の実力者が、無名の秘めた力に気付いていないはずもない。

これは、優しさからくる小芝居であった。


それを察したのか無名はしゃがみ込み手袋を拾った。

周囲がざわつく。


「全員見たな!無名殿は私の手袋を拾った!つまり、私と決闘する事が今この瞬間決まったのだ。決闘は明日。お互い万全の状態で挑む、それで良いか?」

無名は黙って頷く。

国王もロルフの策に気づいており、ざわめく周囲の者達を手で制すると立ち上がる。


「決闘は明日、この時間にて行う。訓練場を貸し切り一対一の決闘だ。立ち合いは余が行う!異論はないな!?」

国王に意を反する者などいない。

クライスはもう一度ロルフに目配せするとお互いに頷いた。





無名とアルトバイゼン王国魔法師団副長による決闘の噂は瞬く間に広がっていった。

それは他の勇者の耳にも入る。


「は?無名が決闘?今度は何をやらかしたんだよ……」

黒峰は呆れた表情で決闘の話を持ってきた茜に言う。


「んーアタシも知らないですね。まあどうせ無礼な態度を取ったとかそんな所じゃないですか?」

茜は結構王城を動き回る。

その時に偶然聞こえてきたメイド達の会話をそのまま黒峰に伝えていた。


「あの人問題しか起こさねーな……」

大輝はベットの上で包帯に巻かれながら、呆れた表情を見せる。

片腕は失ったが莉奈の回復魔法のお陰で顔色はかなり良くなってきていた。


「で、その決闘はいつか聞いたか?」

「明日らしいですよ。せっかくなんで見に行きましょうよ!アイツがどれだけ強くなったか見ておきたいですし!」

茜の言う通り他のみんなも今の無名の実力がどれ程のものなのか知りたかった。

この世界に来ておよそ半年。

黒峰は今や一人前の剣士となり、茜や莉奈も精鋭の魔法使いとして活躍できるくらいには力を付けていた。

それだけの時間があったからこそ4人は成長できた。

ただ同じ時間だけ無名も成長しているだろう事は想像できる。

この世界に来た当初ですら無名の実力は一線を画していた。


「もし彼が無茶をやらかしそうになったら、止めなければならないな」

「アタシが宙に浮かばせてやりますよ!」

茜の魔法なら人一人浮かばせるなど簡単な事だ。

宙に浮かされればたとえ無名が凄い魔法を使えたとしても数秒の隙は出来る。

そうなれば今度は黒峰の出番だ。

多少怪我を負わせてしまうかもしれないが、勢い余って無名が副団長を殺してしまう悲劇は避けられる。

最悪の場合、莉奈が回復すればいいだけだ。

黒峰はそう考えていた。


数か月ぶりに顔を合わせる事になるが、黒峰は少しだけ楽しみにも思えていた。

知り合いのいないこの世界で、同じ境遇の同性である社会人は彼だけだ。

仲良くなっておきたいのは当然であった。


性格は難ありだが無名のような人の心がないタイプの人間など芸能界では腐る程見てきたのだ。

黒峰にとっては慣れた相手であり、ある程度仲良くなれる自信もある。


茜も芸能界にいる人間だが、アイドルという立場もありほぼ関わりはない。

俳優である黒峰からすれば殆ど初対面みたいなものだ。



ただ明日の決闘で無茶苦茶な事をしでかさないよう祈るばかりであった。

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