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SETSUー炎の姫と接続者《リンクメイカー》  作者: UMA20
第一章 満天を切り裂く陽炎星
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7-メイドの帰還

 

 一週間という期限は長いようで短い。

 あと六日ある、あと五日あると思っているうちに、気付いたら当日になっているのだ。

 それは宛ら、時限爆弾を解体しているときのよう。

 じっくり、じわじわと精神的に苦しめられる。


 そんな苦しさを、主人だけに合わせるわけにはいかない。

 そんな心持ちから行動した一週間であった。


 門下生を探して、エリュシテの全区内を駆け巡った。

 “道場に入る”と、一言でも言ってくれれば良いのに。

 フレアクラフト(・・・・・・・)の名を出すと途端に逃げてしまう。

 確かに、中途半端な人間であれば数人、見つけることはできた。


 しかし彼らを前にして、(よぎ)る。


 かつて仕えた男の顔が。

 今仕える少女の顔が。


 曇りなき、決意と信念の家柄。

 それを一切違える事なく継いだ現在の主人は、仕えるにたる人間だ。

 世渡りが下手、とも思う。


 だからこそメイドたる自分が、ストッパーとして機能せねばならない。

 多少の無理を通してでも、判子を押させて門下生を連れてくるべき。

 そう、理解はしているはず──なのだが。


 書類を書き切る前に、毎回紙を取り上げてしまった。

 (よぎ)るかつてと今の主人の顔が、悲しい顔になるようで。


 ──己は馬鹿だ。

 どうしようもない、主人不幸ものである。

 そんな意味のない後悔に歯噛みする。

 そうして一週間が過ぎた。


 帰途につき、メイドは思う。

 この一週間であの主人が候補生を見つけているわけはない。

 勿論、メイドが切ったような不適正な人物を、入門させているのなら話は変わってくる。

 そんな行動を、彼女がするとは思えなかったが。


 安普請なボロ道場に着いた。

 相変わらずのボロさだが、立派な看板だけが寂しく立て掛けられている。


(ええい、腹を決めなさい)


 扉の取手に手をかけて止まる自身に、心で発破をかけ、意を決して扉を勢いよく引いた。


「申し訳ありません、ファレーナ様。一週間で候補生を探して来る予定だったのですが、見つかりませんでした──ので! かくなる上は、不肖、(わたくし)めが門下生になる事でこの場を凌ごうと、進言させていただきt──」


 メイド姿から騎士姿への早着替え。

 ファレーナの服装の意匠は基本、鎧というよりもとある事情により学生服の方が近い。

 それと比べれば、古き良き甲冑を装着したメイドは正しく騎士と呼べる。

 まずは姿から、とはいったものであった。


 だが、その準備が無駄だった事を瞬時に理解し、思考は停止した。


「ほら! もっと食べなさい。怪我人は食べる事で傷を治すの。私の薬は効果覿面だけど、それは食ありになんだから」


「も、もう食べられません……うっぷ」


「軟弱ねー! そんなんだからあんな辺鄙な道場でいじめられるのよ! ほら! 後二皿!」


「そこは一皿じゃないんですかぁ!?」


 眼前で繰り広げられる、師匠と弟子の食事風景。

 包帯でぐるぐる巻きにされた見知らぬ男と、その男の口に粗雑に食事を突っ込む主人。

 それはまるで愛妻弁当を夫にあーんしているような、なんとも仲睦まじい光景に思えて、思わず嫉妬心が燃え上がる。

 込み上げる感情は理解しようとする脳を停止させ、メイドは石のように固まった。


「ん……? あ! リベリカ!! 帰って来たのね!?」


 メイド──リベリカを見て、ファレーナは抵抗していたブランクの口に食事を突き刺して、涙ぐみながらリベリカに駆け寄った。


「わ、私……み、見捨てられちゃったんじゃないかって思ってぇ……心配だったんだからぁ」


 しかし、主人の変わらぬ姿に石化は解ける。

 暖かい手。可愛らしいご尊顔。

 ちょっと力を入れれば、折れてしまいそうな身体。

 その全てが、愛らしくいじらしい。


「……ファレーナ様」


 自尊心の強い主人が、なぜか自分にだけはとても強い執着心を持ってくれている。

 その事実が、心に幸せを染み渡らせた。

 優越感。このポジションは脅かされることはなく、腹をパンパンにして倒れている目の前の男も同様だ。


「私の勝ちだ」


「なんの話?」


「いえ、こちらの話です。それよりファレーナ様も、道場も……とりあえずの窮地は脱したようで良かったです。まずは話を致しましょうか」


 昂っていた感情は終始ファレーナに突き動かされたが、漸く落ち着きを取り戻したリベリカ。

 荷物を置いて、一先ず食事を男に食わせる事が久しぶりの仕事になりそうだった。


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