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SETSUー炎の姫と接続者《リンクメイカー》  作者: UMA20
序章-彼女は正しく焔が如く
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4-ドーベルマンナイト道場

 聳え立つ道場はまるで城のようで、道場の主の顕示欲の高さを示していた。

 黒が基調となった配色で建てられており、看板を咥えたふとましい黒い犬が特徴的だった。

 ドーベルマンナイト道場。


 本日、騎士道場“虹焔”と試合を行った初戦相手の道場である。

 ナイト、という名前はごく最近出来た道場の特徴であり、ここ五年の間で増えてきた流行りの名前であった。


 地獄の扉のような門を超えた先、そこはまた獄中だった。

 迫り来る複数の刃を避けるギロチンマシンや棘のついた鉄球を打ち返すバッティングマシン等の殺伐としたトレーニングマシンが配置され、それを受けている弟子達は死に体で転がっていた。

 過酷すぎるトレーニング内容、碌な訓練を受けていない者からすれば拷問と変わりはない。


「ガーハッハッハ!! よくやったぞ! レイテル!」

「ひひ、あの程度、街のチンピラでも倒せやすぜ!」


 そんな獄中の中で、ふんぞりかえる者がいた。

 筋骨隆々の身体つきに黒の道着を着用し、腰まで伸びた黒い顎髭が特徴の男だ。

 身長も三メートル程あり、その風格は正しく、この道場という名の城を治める王と呼ぶにふさわしい存在だった。

 名をブルブラック・ドーベルマン。

 まだ師の資格を取って半年程ではあるが、多大陸で技術を研鑽してきた十分な実力者だ。


 そのブルブラックの大きな掌で頭を撫でられているのは、試合に出場していたレイテルだった。

 へっぴり腰で振った剣はとても騎士の名に相応しいものではなかったし、実際道場での強さも地位も高くない。


 だが今回の勝利の件でブルブラックの評価が上がっていた。

 なぜなら──


「フレイムクラフト……前の代で落ちぶれたと聞いてはいたが、あまりにも肩透かしよなぁ。かつての勇者の血が聞いて呆れるわい」

「ブルブラックさんの地域でも炎の勇者の話は有名ですんで?」

「あぁ、さすがにな。このエリュシオン王国の六勇者の話を知らんやつなぞ、この大陸にはいないだろうよ」


 六勇者。

 かつてエリュシオンを作ったとされる剣の勇者と、剣の勇者が纏め上げた五人の冒険者の事である。


 炎の勇者フレアクラフト、

 水の勇者アクアマリナス、

 土の勇者アイアンドット、

 風の勇者ウィンドピスタチオ、

 光の勇者ブライトハイライト、

 そして剣の勇者ソルドソードソート。


 この六人は魔王を倒し、エリュシオンの元の国を魔物の軍勢から守り切ったとして永劫語られる英傑である。


 現在の騎士等級の基盤を作ったのもこの剣の勇者とされていて、エリュシオン王国以外の各地から本場の実力を知りたいと騎士がやってくるのだ。


 ブルブラックもその一人。

 半年前にこの地にやってきて王国の一等地に道場を建設。

 騎士試験でも文句なしの結果を残し、即座にその名を町中に知らしめていた。


「その子孫の弟子を完膚なきまでに倒したのだ。我らの実力の良い宣伝となった」


 非常に上機嫌でレイテルの頭を撫でる。

 勢いは凄まじく、ともすれば禿げてしまう力加減でレイテルの顔は引き攣っていた。

 そんなレイテルのことは気にせず、目を眇めてブルブラックは周りを見渡した。


「貴様らと来たら、何という体たらくだ。レイテルを除き、全員初戦敗退だと? 勇者の血筋でもない有象無象にどいつもこいつも負けくさりおって……恥晒しどもが!!」


 黒い鎖を生み出して握り振るう。

 金属同士がぶつかり合う嫌な音、風を切り、炸裂するその鎖の威力は容易に人の骨など砕き散る。

 弟子は鎖が直撃し、壁に吹き飛ばされる。


「が……っ!?」

「ふん。脆弱、軟弱、惰弱よな。貴様らなぞ、早々に破門してやりたいところだが、門下生が居らねば金が入らん。治癒もしてやる。修行して強くなれ。そしてワシの知名度を上げるのだ。ここでワシが第二の勇者として名を残すためにな」

「ひぃ、ひっでぇや」


 転がる死に体の全ては無理矢理に修行させられた者とブルブラックの制裁による物だ。


「貴様らも初戦敗退などという汚点を残してくれるなよ」

「当たり前さぁ、ブルブラックさん」


 椅子の周りに集まる数人の門下生上位は等級が違うため試合が別日だった。

 故に椅子の周りで同様に大きい態度をしている。

 大した実力ではないので、ここのほぼ全てが数日後は同じ有様で地面を舐めているのだが、それはまた別の話。


 ピリピリと肌がひりつくような逼迫した空気が場内に充満している。

 ブルブラックは強き者だ。

 黒星に到達できるものは限られた強者のみ。

 等級が十四ある中で、十等級から黒星に上がるのは高い壁の一つと言われている。

 その合格率は驚異の一万人に一人。

 エリュシテ内でも数人程度である。


 そんな男が機嫌を悪くしたのなら、本人の発する魔力圧で息苦しくもなるのだ。

 門下生の誰もが早く、機嫌を直してくれと願う中、


「た、ただいまもどりましたぁ」


 門下生たちの顔が更に曇る、

 何と間の悪いタイミングで帰ってくるのだと。

 いや、魔が悪い、のかもしれない。

 地獄の門のその前に、ヘラッと笑う少年が一人。


 ファレーナに認めてもらえなかったと、勘違いしたブランクがそこにはいた。


読んでいただきありがとうございます。

少しでも“面白そう”と“続きが気になる”と感じましていただけましたら、『ブックマーク』と『評価』の方していただけますと幸いです。

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