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SETSUー炎の姫と接続者《リンクメイカー》  作者: UMA20
序章-彼女は正しく焔が如く
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2-出会い


 エリュシオン王国の首都エリュシテは毎日のように賑わう、貿易が活発な街だ。

 それはエリュシテが大陸のど真ん中にあるため、東西南北あらゆる地から珍しい物が集まるのだ。

 海外からの商人も例外ではなく、

 この町で手に入らないものはないと言われる程である。


 そんな陽気な街の雰囲気の中、沈んだ空気で歩むファレーナ達三人。

 それは鼻歌を歌っていた者が、笑顔の少女が、泣きべそをかいていた赤ん坊が、思わず気に取られてしまう陰湿な空気感だった。


 そして視線がファレーナの赤い髪に行き、皆口々に言うのだ。


 “あぁ、フレアクラフトの”


 ファレーナはその小さな声を聞き、歯軋りする。

 整った顔を怨みがましく歪ませて。

 三人が向かった先はエリュシテの外れも外れ。

 外周部に当たる、森だ。

 森の手前には、騎士の武具、魔術道具を作る工房に加え、建築業の物置き場などが隣接している職人街があり、そこを抜けた先にファレーナ達の道場はあった。


 フレアクラフトが運営する道場“虹焔”はエリュシテ円周外部ギリギリ、森の中に建てられていた。

 安普請な木造建築であった。

 古めかしい歴史ある物ではなく、

 まるで有り合わせのものでとりあえず建てられた物のような、そんな粗雑さがあった。

 だからこそ、立派な木の板に描かれた虹焔の文字が寂しく写った。


 道場内に入り、ある程度の手当を済ませたファレーナの弟子──シャガ。

 試合では魔術の鎧によって絶対に死なない状況が用意されるが、

 ある程度の傷や衝撃は防壁を貫通してしまう。

 とはいえ、シャガ達の等級では鎧を貫通するほどの攻撃力を持たないため、単純な痛み止めである。

 塗り薬の方が飲み薬より安価なため、

 経営不安があるフレアクラフトの道場では塗り薬を重宝していた。


「オレ、この道場やめるわ」


「ぶほぉっ!?」


 ファレーナはメイドが入れてくれた粗茶を口に含んだそばから噴き出した。

 正面にいたシャガはずぶ濡れになった。


「な、なんでよ! 貴方、フレアクラフト……私みたいに強くなりたいんじゃなかったの!?」


「……まずファレーナ。あんた道場資格ギリギリの8等級じゃないか」


「ぎくっ……」


 騎士等級は一から十まで存在し、

 その上に黒星壱から参、

 最後に現在三人しかいないとされる白星という順番だ。

 道場を経営できる師の資格は八等級からしか取れず、基本的に八等級の道場には強さ以外の目的でしか通うメリットがない。

 ファレーナでいえば、家柄であった。


「炎の勇者、フレアクラフト。五勇者と呼ばれる尊き血筋のうちの一つ。かつては現エリュシオン王家である剣の勇者と共に魔王を倒した家柄だというのに今では親方達に情けで建ててもらったおんぼろ道場が一つだけだ。そこで学べば、強くなれるかもしれない……と思った時期がオレにもあったが、ここではオレは強くなれない」


「そ、そんなことないわ!!」


 シャガの諦めた心からの言葉は核心をついていた。

 その裏にある諦観もまた、生半可な説得では払拭出来ないと。

 だが、考える暇などファレーナにはなかった。


「ほら、まだ入って半年よ。確かにシャガの攻めっ気は私の流派としては物足りないけど、そんなのやってれば勝手につくわ。私も最初はそうだったんだから。さっきの試合だってもっと攻め気で押してれば絶対に勝ってた! そうね、次の訓練では山に入って魔物相手に組み手でも──」


「もう、ついていけないんだよ!!!」


 俯いたシャガから出る言葉は道場でこだまする。

 今まで一度も大声など出したことがないシャガの姿に、感情を露わにするシャガに、ファレーナは思わず声を失った。


「あんたは……頭が硬すぎる」


 シャガはそのまま道場を後にする。

 残されたのは開いた口が塞がらず、

 硬直するファレーナと正座するメイドのみ。


「ファレーナ様。お気を確かに」


「は!!? お、追いかけないと……」


「無駄ですよ」


 踵を返し、走ろうとしたファレーナを静かにメイドは静止する。


「あの顔には覚えがあります。アレは、諦めた顔だ」


「そんな……」


 基本ファレーナに甘いメイドが諫言を言う時は大体が正しい。

 説得力は経験から生まれている。

 ファレーナは力なく座り込み、

 目尻に涙を浮かべ始める。


「どうすればいいの……門下生がいないと知名度を上げられないし、試合にだって出られない。それに門下生がいない状態が一週間続いたら、閉鎖しなきゃいけないのよ!? ただでさえ、一人辞めては入っての繰り返し……もう五年もこんなことしてるから、信頼なんかない! 今更入って来る門下生なんて飛んだ世間知らずか物好きの……って、何してんの?」


 一人で悶々と頭を掻きむしり、悩み唸る主人を置いて、道場の真ん中で正座をしていたはずのメイドは、パンパンのリュックサックを背負っていた。


「少し、お暇をもらおうかと」


「ま、待ちなさい。私しってるわ、それ。お暇って言って帰ってこないやつ」


 ファレーナの追求に、メイドはスッと目線を逸らした。

 するりするりと道場の出入り口に向かって後退る。


「いえいえ。そんなことはありません。少しだけ、えぇ。ほんの少し……」


「目が泳いでる!!? その少しは十年!? それとも一生じゃあないのよね!?」


「いえいえいえ。マジマジ。えぇ、ガチガチ」


「それ絶対帰ってこないやつ……あぁっ!!!? 待てェェェェェェェェッッッ!!!」


 必死の静止は虚しく、メイドはその場を立ち去った。

 それから一週間の期限の間、ファレーナは門下生探しに勤しんだ。

 朝から晩まで街中でビラを配り、他の道場に押し入って道場破りと勘違いされたり、様々な事をした。

 だが、フレアクラフトも腐っても勇者の血筋だ。

 何人かは門下生になりに来たが、ファレーナはその全てを断った。


 才能を感じられないのだ。

 その理由だけで、道場が潰れるかもしれない危機に一歩踏み出している。


 メイドであれば、誰でもいいから取ってしまいなさい、と諌めるかもしれない。


 だが浮浪者、

 名声目当てで努力が見られない男、

 道場をアクセサリーのように考える女。

 誰も彼もが不真面目であった。


 そうした天から伸びた糸を全て切り落とし、ファレーナは道場で大の字で寝ていた。

 思い出すのはシャガが入ってきた半年前のこと。

 チャラチャラした陽気な奴、それがファレーナの第一印象だ。


「シャガは見どころはあった」


 だから入門させた。

 自分が鍛えれば、きっと強い騎士になる。

 その自信があった。

 おそらくは彼にも。

 だが、もう彼はここにいない。


「シャガの言うとおり……私の頭が固いのか」


 次来た人は実力関係なく入門させるか。

 しかしそれは自分の志にも、父の教えにも反する。

 どうにかそれだけは回避したい、

 どうすれば──と、堂々巡りの迷宮に入りかけたその時。


「──あのぉ、チラシ見て来たんですけど、本当にここであってる、のかな」


 ビクビクと怯えた声が、玄関からやって来た。


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