1-敗退
“騎士”
それは、誰もが憧れる称号であり存在だ。
彼らの振る剣は人を救い、
彼らの振る術は敵を倒し、
彼らの振る戦はいつも華々しかった。
勇者が魔王を倒した後の世界で、その後始末をする彼らはまだ、未来を見通せずにいた──
–
エリュシオン王国、首都エリュシテ。
円形闘技場にて。
円形闘技場内の盛り上がりは最低だった。
観客達は親指を下に突き刺し、紙吹雪も花火も上がらない。
円形闘技場の闘技場中心部では絶賛試合が取り行われており、しかも第一試合であった。
本来であれば、イベントの最初と最後は盛り上がりどこの一つであろう。
だが空気は最低。
それもそのはずだ。
円形闘技場入場口、選手関係者でなければ出入りできない場所に特別に設立された師匠席だ。
そこで懸命に選手を応援する赤髪の女こそ、その犯人である。
身長は百五十程度の小柄な体躯。
燃えるような朱色の、腰ほどまで伸びた長髪に蝶のような髪留め。
夜の闇を切り裂くような細い目は、そのまま対戦相手を殺さんとする殺気を放っている。
鍛え上げられた肢体も鍛錬の賜物であった。
騎士服は赤を基調に染めあげられ、防御性能では頼りない飾り用の薄い胸当てと鉄板を身に纏う。
刀身の赤いレイピアを腰に佩いていた。
名はファレーナ・フレアクラフト。
このブーイングの標的であり、
闘技場に出ている選手の師匠であった。
「ぐっ!!」
「こら! 反撃しなさい! そこだ! 隙だらけでしょ! 何してるの!!」
対戦相手も第一試合ということもあり特別強い相手ではなかった。
武芸に秀でたものでなくても、
その相手がまだまだひよっこだというのは理解出来るレベルの剣の振り。
やー!と覇気のない掛け声と共にヘナヘナの振り被りを見せるのだから、
見てる側のやる気も削がれる。
しかし一番の問題はファレーナの弟子である。
そんなヘナヘナの攻撃を一方的に受けるばかりで、全く反撃できていない。
その戦いは華々しいものとはとても言えない泥試合だった。
これがブーイングを加速させる要因の一つかもしれない。
「じれっったい!! さっさと反撃しなさい!」
「っったって……!」
円形闘技場審判席下に取り付けられた、映像を出す魔術道具にて表示されているのは選手とLGだ。
100が最大値であり、目に見えない魔術の鎧が損耗する毎に減っていく。
それは相手の攻撃だけでなく、魔力の消費や体力の消費でも減っていく実戦に沿った形式のものであり、
最も一般化されている試合ルールだった。
現在、相手側のLGは95に対し、
ファレーナの弟子のLGは既に25。
最早勝ち目はない。
「なんでこんなッッ!! クソッッ!! もっと攻めなさい!!!」
「────チッ!」
「いや! それは──」
ファレーナの言葉に応じて、
弟子は剣を振り上げた。
しかし雑念混じりの攻撃はただの隙でしかなく、
「やー!!!」
対戦相手のただ振り下ろしただけの剣が直撃し、
LGは一気にゼロとなった。
弟子は白目を剥いて倒れ、
対戦相手はガッツポーズ。
勝者の誕生に喝采が巻き起こり、
それを実況者が盛り上げる。
それに反してファレーナ側にいた観客側はブーイングの嵐を巻き起こしていた。
実況者は混乱を落ち着かせようとするが、
一度ついた火種はそう簡単に消えはしない。
「帰りましょう。ファレーナ様」
「……っ!!」
観覧席の柵を怒りのままに殴り壊し、
ファレーナはお付きのメイドに弟子を抱えさせ、 その場を後にした。
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