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第1話 神様は僕の都合なんて知らない。

きっと、いじめが無くなることは無いのだろう。

優劣を決めたがるのは生物の本質であり

悪い方向で優劣を決定付けるいじめは

どこまでも日常に溶け込んでいる。

何故いじめが無くならないのかなどと

馬鹿な質問を繰り返しては解決を見ない報道陣を

僕は心の底から殴りたいと思う事がある。


いじめは無くなるべきだ。

しかし、いじめ自体を根絶する事は多分不可能なんだ。

だから大事な論点はきっとそこじゃ無い。

どうしていじめを黙認するのか、

どうしていじめに遭っている僕を助けてくれないのか。

未然策なんてそんな事を安全圏で勝手に話し合われても

いじめられている側にしてみれば余計なお世話だ。


八つ当たりに聞こえるかもしれないけど

結局のところニュースでいじめがどうとか、

どうしてこうなっただとかそんな事を言っている間にも

いじめは止まらない。


じゃあお前、何が言いたいんだ?

って話になるかもしれない。

……別に僕は何かを言いたい訳じゃ無いんだ。

ただ、生きていると言う事は

常に理不尽が付き纏うと言う事で

僕はもう身に降りかかる理不尽へ真っ向勝負する気力を

失ってしまっているってだけの事だ。


別に良いんだ。

都合よく助けてくれるヒーローはいない。

僕はもうこの運命を受け入れている。

そして、あと1年でこの理不尽からは脱することができる。


本音を言えば助けて欲しいし気付いて欲しい。

心の底から世界が嫌いになって、

こんな事すら解決できない無力を呪って……

でも、相手は物凄く巧妙に僕へ危害を加えてくる。

多分証拠になるようなものは処分されている。

親がグルの金持ちは本当にタチが悪い。


そうして僕は奪う意味のない財布と

ぐちゃぐちゃに踏みつけられたスマホの残骸を

丸ごと奪われて痛む身体に鞭を打ちながら帰宅する。


そんなある日だ。

僕は新しく買い換えたスマホを見ながら、

せこせこと初期設定を済ませながら歩いていた。

それが良くなかった。


誰かが僕の腕を掴んで物凄い力で裏路地へと

引っ張り上げてきた。

とても抵抗出来るレベルの力じゃない。

まるで自動車にでも紐を括られて引っ張られてるみたいだ。


何より驚いたのが僕の腕を掴んでいる手の主が見えない。

“手だけ” が僕を引っ張っていた。


混乱しながら僕は情けなく悲鳴をあげるばかりで

すぐに抵抗も諦めてしまった。

自分ではどうする事も出来ない物事へ抵抗を続けても

無駄な事は吐く程理解している。

諦める事に慣れた人間の嫌なクセだ。


廃ビルの屋上まで引っ張られると

手は僕を引っ張るのをやめた。

と言うか、僕を引っ張る手なんてものは

もうそこには無かった。


(怖い……怖い怖い怖い!!)


僕は混乱する中周囲を見回した。

そして僕の後方にいつの間にか

女の子が1人立っている事に気付いた。

薄紫色の髪をしたその子は

まるでこの世のものとは思えない程きれいだった。


ただ、何故かうちの男子用制服を着ている。

いやそもそもこんな子、うちの学校にいたっけ?


「やほやほ〜♪♪ 待ってましたよ! 長島センパイ♪♪」


女の子は可愛らしい声で僕を呼ぶと、

手を振りながらパタパタと駆け寄ってきた。


近くで見るとやっぱり可愛い。

紫色のジト目に、少し先端が内側にカールした

肩を覆う髪。

その上ここまで可愛いなら間違いなく

学校でも有名人な筈なのに……

やっぱり僕はこの子を知らない。


長島ながしま じょう センパイですよね?

初めまして♪♪

私、センパイの2つ下の後輩って事になってる

レクって言います♪♪

レクちゃんって呼んでくださいね♪♪」


「なってる……?」


妙な言い回しをされたがレクを名乗る自称後輩は

笑顔でこちらを見てくるばかりで何も言って来ない。


「れ、レクさん……ね?

変わった名前だけど……が、外国の方だったりします?」


緊張で声が震える。

初対面だと後輩らしい相手にも敬語を使ってしまう。


「もー! そんな他人行儀やめてくださいってばー!

レクです! レ! ク!」


「れ、レク……ちゃん?」


「うーー……まぁ良いですよ? それでも」


質問には答えてもらえなかった。

と言うかはぐらかされた?


「あの……質問に答えてもらえたりとか……」


「ん? ……あー、まぁ?

多分私の事なら近いうちに分かると思いますよ?♪」


何で疑問形?

あと悪いんだけどさっきから音符語尾ウザいな。

……会話しているから語尾なんて見えない筈なのに

一々エフェクトがチラチラ舞って見えるんだけど。

……何なんだこの子?


「さて、では手早く済ませてしまいましょうか?

センパイ♪♪」


レクはニコりと笑みを作ると

腕を大きく振り1回手を叩いた。

叩いた手は心地の良い音を立てて

光の波のようなものを空気に伝わらせる。


そして、その行為を境に

いつの間にか僕は見たことも無い世界に放り出されていた。


とてもでは無いけどこの世の風景とは思えない。

霞がかった一面に何か砂のような

キラキラとしたものが舞っている。

地面は無く白い椅子が2つ浮いている。


あまりの光景を前に言葉も出ず霞の世界に浮いていると

再び何処からか手を叩く音が響く。


そして、僕は呆気にとられたまま椅子に座らされていた。

重力らしいものは感じない空間なんだけど

椅子に座っている感覚だけは

しっかりと伝わって来て気持ち悪い。


向かい側の椅子にはレクが座っていて

こちらに手を振っている。


「えっと……ここは何処なんですか?」


不思議と緊張は無かった。

言葉が喉に詰まらず、スルスルと駆けていくのを感じる。

しかし、敬語が外れない。

僕は生まれて初めてこの他人行儀が

緊張を要因としたものでは無い事を知った。


「んー……どう言ったもんですかね?

とりあえず、センパイと会話する上で

都合の良い空間って事で理解しておいて下さい♪♪」


「都合の良い?」


「はい♪♪ 今、ちゃんと思ってる事が口に出せてますよね?」


確かにそうだ……最初こそ驚いたけど

心は静かに落ち着きを保っている。

そのお陰なのか言葉に一切の詰まりを感じない。


「この世界に来る為には条件があります♪♪

センパイはその全てを満たしていたんですよ♪♪

……まず、自分自身を心の底から嫌っている事♪♪」


「え?」


「ん? 間違って無いですよね?

センパイは今の自分が大嫌いな筈ですよ?

その上で、自分以外の何もかもが嫌いな人で無ければ

まず私に会う事自体 “ありえない” ですから♪♪」


人聞きの悪い事を……まるで僕が

何もかもを嫌っているみたいな


「嫌ってますよ? センパイは」


「え……? 今……」


「はい♪♪ ここでは思ってる事も全部筒抜けですから♪♪」


僕は激しく動揺したけど何かに抑制されていくように

すぐ心は落ち着きを取り戻した。


「ここに来る為の条件は大きく分けて2つです♪♪

全てが嫌いになって

私が視えるようになってしまった人である事♪♪

……そして、そんな状態になって尚

人として生きようとしている “人” である事♪♪」


「人として?」


「はい♪♪

要するに、センパイは自分自身を含めて

全部消えて無くなって欲しい位には

何もかも憎んでいる筈なのに

その上できちんと、人が定めた “法律ルール” を厳守して

生きようとしているんですよ♪♪

ただ、その中でも私が視えるのはほんの1部なので

あくまでもこれは “最低条件” なんですけどね♪♪」



いまひとつ要領を得ないが

次の瞬間、僕は言葉を失った。


「ここは私と人が命の契約をする場所です♪♪

センパイにはこれから異世界へ転生して

頑張って生きて貰います♪♪

拒否権はありません♪♪」


「………はぁ?」


これが、僕の人生を狂わせた女の子であり

この先に待ち受ける全ての元凶の1人でもある

レク との出会いだった。



後輩を名乗る謎の女の子 レク の手によって

僕は今、正しくこの世とは思えない場所にいる。

そして僕はそんな未知の場所で

ライトノベルでしか聞かないような宣告を受けていた。


「冗談はやめてくれませんか?

そんな異世界だとか言われてもよく分かりませんし、

そろそろ帰して欲しいんですけど」


「無理ですよ♪♪」


「へ?」


レクはクスリと笑うと

どこかで見た覚えのある形をした物体を

左手で僕の目の前に突き出して見せた。


ファ◯コンのカセットのような形状をした白いそれには、

『World of the Earth』

と、黒い文字で大きく書かれている。


「これは……?」


僕は目の前に出されたそれの正体を確認する。


「これはセンパイの人生ですよ♪♪」


「はい?」


「これが無いとセンパイは元の世界には帰れません♪♪」


「……あのさ、そろそろその冗談やめt」


「本当に、冗談だと思いますか?」


急にレクの調子が変わった。

さっきまでの軽かった言葉とは比べ物にならない

強烈な重みがある。


「だってそうじゃないですか……

こんな、こんなゲームのカセットみたいなのが

僕の人生とかふざけてるとしか」


「言い方を変えればゲームみたいなもんですよ?

この世界は」


「え?」


「ある偉大な神が生み出した生命管理システムは

万能ではありませんでした♪♪

7000年以上前に1度生命はその余波に巻き込まれて

全滅したのも、意図的であったにしろ

旧生命管理システムに

異常があった事を示しているんですよ♪♪

そして、その時に “アゲハ様” によって

試験的に生み出されたのがこの

命を創造するシステムと、壊して別の形に再生するシステム

そして、命をリサイクルするシステムです♪♪」


その言い方だとまるで今から僕は

リサイクルされてしまうかのように聞き取れるが、

そんな事を考えているのも向こうには筒抜けだったようだ。


「今から行うのは、言わばカセットの入れ替え♪♪

異世界転生♪♪ 人生のリセットって奴ですよ♪♪」


「本当に……本当に地球には戻れないのか?」


「おや? 敬語が取れましたね♪♪ そうですよ♪♪

センパイが何を信用しようと、どう考えていようと、

これからセンパイは別の世界へお引越しするんですから♪♪

でも心配しないで下さい♪♪

痛くも苦しくもありませんから♪♪」


レクはそう言うと

謎の機械を僕とレクの目の前に出現させた。

カセットの差し込み口のような物が2箇所あり、

レクは楽しそうに鼻歌を歌いつつ僕に見せたカセットを

片方の穴に差し込んだ。

そしてポケットから青いカセットを取り出すと

それをもう片方に差し込んでスイッチを入れた。


「転生させる為の準備を開始します♪♪

まずはこの機械 “人生更新システム” からの質問に

全て答えて下さい♪♪」


人生更新システムと呼ばれたそれから手元に光が伸び

四角いホログラム画面を形成した。

僕は抵抗をしたが、妙な2択ばかりを迫るそれに

何故か自分の意思に反するように

身体が勝手に返答をしていく。

抵抗出来ないこの状況に陥った事で

僕は間違った結論へと到達した。


あぁ……これは夢だ


「夢なんかじゃありませんよ♪♪」


レクは僕のほっぺたを軽くつねった。

つねられただけなのに全身へ物凄い痛みがはしった。


「痛い痛い痛い痛い痛い!!!!」


「あはは♪♪ そりゃそうですよセンパイ♪♪

直接 “魂” にダメージが伝わってるんですよ?」


「じゃあ、まさか本当にこれ……」


「当たり前ですが、全て現実ですよ♪♪」


僕は再度言葉を失う。

信じたく無かった事を受け入れるしか無いことが

理解出来てしまったからだ。


確かに僕はいじめを受けている。

でも死にたい訳じゃない。

ちゃんと将来を見据えていたし、

何よりうつ気味で不登校になっていた妹の事も気になる。

僕には未練が沢山あった。

確かにレクが言った通り僕は世界は大嫌いだ。

でも僕はまだどうしても死にたくない。

死ぬ訳にはいかない。


そんな事を考えているうちに最後の質問が飛んできた。


『Q.どちらか好きな方を選んでください。

・前世の記憶を全て失う代わりに来世での安泰を確約する。

・前世の記憶はそのままに特典付きで異世界転生する。

尚、特典は固定であり本人の意思で選ぶ事が出来ません』



今の僕にとって考えられる中でも最も残酷な質問が

視界いっぱいに埋め尽くされた。

嫌だ……どっちも選びたくない……嫌だ……嫌だ……

しかし、僕の意思に反して身体は動く。


吸い寄せられるように僕の身体は片方を指差した。


『前世の記憶はそのままに特典付きで異世界転生する。』



「どうして……僕はまだ死ぬ訳にはいかないのに」


「無駄ですよセンパイ

だって、あっちでのセンパイの身体はもう

ビルから飛び降りちゃってるんですから」


レクが重苦しいトーンで残酷な事実を突きつける。


「何を……言ってるんだ?」


「センパイは今魂だけの存在なんです♪♪

だから “ここ” に来る前にはもう

センパイの身体からは魂が抜けていたんですよ♪♪

カセットに付いている自壊システムによって

センパイの身体はもうビルから飛び降りて

再生不可能な状態になっちゃったんです♪♪」


「嘘だよね……?

頼むから嘘だって言ってくれよ!!

やり残した事があるんだ!!

せっかく陰湿ないじめに耐えて来たんだ!!

あとちょっとで新しい何かがあの世界で掴めたのに

これじゃあ僕は無駄死にじゃないか!!!」


レクは笑顔を崩さず黙り込んだが

何かを決意しているかのような表情でこちらを見ていた。


「……安心してください。

例え意図的に仕組んだものとは言え、

センパイを傷つけた害獣を許してあげるつもりは

最初からありませんので」


「え……? どう言う意味?」


再びレクは沈黙した。

今の話題についてはもう答える気が無いらしい。

数秒の沈黙が僕の心を鎮めていく。


「……本当は受け入れたくないけど

2つ質問させてくれないかな?」


「……どうぞ♪♪」


「どうして、僕は死ななくちゃいけなかったんだ?」


「答えられません♪♪」


「は?」


「ごめんなさい♪♪

本当は理由を教えてあげたいんですけど、

……これはセンパイ自身が突き止めた方が

ダメージが小さくなると思いますよ♪♪

強いて言うなら……そう!

“特例” ってとこですかね♪♪」



「そんな……僕は自ら死んだ訳でも

事故や事件に巻き込まれた訳でも無いのに

死の理由すら知る事が出来ないのか……?

あんまりだろこんなの……」


悲壮感に打ちひしがれる。

しかしこの空間の強制力はそれすらも許してくれない。

僕はどんどん冷たく……平常心を取り戻して行く。


「……じゃあ、2つ目の質問なんだけど

どうして僕がレクちゃんの “センパイ” なの?」


レクは少し考えるように黙ると点々と言葉を連ねた。


「“特例” のオマケとでも思っておいて下さい♪♪

お好きですよね?

明るくて、尽くしてくれる後輩キャラ♪♪」


レクは相変わらず笑顔を崩さない。


「……それに、私結構センパイの事が気に入ってますから♪」


「レk」


「センパイ、もうそろそろ時間になります♪♪

悲しいですがここで一旦お別れです♪♪」


レクは押し切るように僕の言葉を遮った。


「頭上を見て下さい♪♪

それのカウントが0になったら、

センパイの新しい人生が始まります♪♪」


頭上を見上げると空間に数字が刻まれていた。

数字はカウントダウンしている。

レクの話通りならあと2分も無い。


抵抗出来ない無力感が僕の背中に纏わりつく。


僕は何度か深呼吸をする。

思い返せば楽しい事もいっぱいあった。

でも、やっぱり嫌な人生だった。

何よりも終わり方が最悪だ。

僕はいくつもある未練を無理矢理に断ち切り

意味があるかは分からないが大きく深呼吸をした。


「ダメだったな……僕の人生」


小さく呟いた。


「魂の準備は出来ましたか?♪♪」


僕は再度大きく息を吸うとしっかり前を向いた。

もう後戻りは出来ない。

なら……僕は新たな人生とやらをしっかりと受け止めて

生きていくしかないじゃないか。


「どうせもう抵抗しても無駄なんでしょ?」


「はい♪♪ 無駄です♪♪」


レクは冷酷に笑顔のまま告げた。


「はは……うん、もう良いよ。 全部」


僕はあるがままを全て受け入れて全て諦めた。


「転生が完了したらすぐに

ステータスボードを開いて下さい♪♪」


「え……何?」


「開き方は簡単です♪♪

心の中で “メニュー オープン” と唱えるだけです♪♪

そうしたらアイテムストレージを開いて下さい♪♪

ステータスボードは考えるだけで操作出来ますので」


「待って待って待って待って待って」


まるでゲームのチュートリアルを

説明でもするかのように淡々と進めるレクを制止する。

これじゃあまるで本当にライトノベルで何度も見た

“異世界転生” みたいじゃないか……


「安心して下さい♪♪

今は理解できないかもしれませんが

転生すれば分かりますから♪♪」


レクはキッパリと言い張り

僕の制止を振り切って話を進めた。


そして、カウントが30秒を切ったその時

空間が切り替わった。

辺り一面真っ黒の世界で、

ただ頭上からスポットライトが降りている。


胸元には青いカセットが差し込まれていて

どんどん僕の身体にめり込んでいく。


「さて、これから “貴方達2人” には

魔法が栄えた世界へ転生して貰います♪♪

片道切符ではありませんが、

すぐにここへ戻って来る事が無いように

心の底から願っています♪♪」


「……2人?」


僕は左隣にもスポットライトが当たっているのに気付き

そちらの方を向いた。


いや……今更こんな事言っても仕方ないんだけど

僕はこの時、心の底から

視線をそちらへ向けなければ良かったと後悔した。


「黛葉……?! え……ど、どうして……?!」


「………」


そこに居たのは、長島ながしま 黛葉まゆは

僕の妹だった人だ。

黛葉は特に驚くでも無くただ黙ってこちらを見ている。


「嘘だよな……? こんな……何で……?!」


あまりの事態に言葉を詰まらせて

何も出てこなくなってしまった。

そして、カウントは0を刻む。


「待っt」


僕と黛葉は青白い光に包まれる。

意識が海に溶けるように静かに散って行き、

目を開ける気力すら失せていった。

うっすらと開いたままの目で僕は妹を見ていた。


すぐ近くにいた黛葉がどんどん遠くへと離れていき

最後にはゴマ粒みたいな大きさにまでなった辺りで

綺麗に消えてしまった。



気がつくと僕は何か柔らかいものに包まれていた。

瞼が重くて思うように目が開かない。

少し踏ん張って目を見開いてみると、

僕はタオルに包まれて美しい青髪の女性に抱かれていた。


(この人が僕の新しい母親……という事なんだろうか?

釈然としない……前世を覚えているからなのか?)


自分が赤ちゃんに戻っている。

記憶が鮮明なだけあって妙な心地だ。

大人が数人で僕と母親らしい人物を

取り囲んで何かを話している。


必死に聞き耳を立てるが全く知らない言語だ。

何を言っているのかなんて皆目理解出来なかった。


こうして、僕の中で黛葉を探すという

無謀で大きな目標が掲げられた。

壮絶な第二の人生がフライング気味に始まってしまった。

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