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だるま勇者


 路銀もそこを着きかけていたので、俺は仕方なく村に帰ることにした。

 ホロの姿をついぞ見ることは叶わなかったが、爺さんの言葉を信じるならホロは無事生きているだろうし、世界を救った彼女だ、もうその存在は遠いものだろう。


 ホロの姿を見ることができず、村長にどやされるだろうか。


 まあ、その時はその時か。ホロの手紙か、ホロのたまにの帰郷を待とう。


 帰路の途中、路銀が尽きてしまったので走って帰ることになったが、鍛錬となるのでよしとしよう。


 寒空の下、俺は三日ほど走っては寝てを繰り返して村に到着した。

  

 もう腰が曲がり切った守衛のおっさんに挨拶して、村に入る。


 少しの違和感があった。それは村に入った瞬間から感じることができた。


 いつもより、村が静かな気がする。

 

 嫌な予感がする。


 まっすぐと長老のいる家へと足を運ぶと、そこにはいつもよりも仏教面の長老がいた。


「...帰ったか」


「どうしたんだよ、いつもより長老っぽい顔してるじゃん」


「...ホロが帰ってきている」


 正直それには少し驚く。


 ただ村の雰囲気や長老の様子をみて、不安感が俺をあおっていた。


「なんかうれしそうじゃないね」


「...あってやって、くれないか。本人はさほど何とも思っていないようじゃが...いつもどおりで接してあげてほしい」


 いつも通りって。ホロと別れてからもう何年もたっているというのに。

 どこか容量の得ない村長の言葉に俺は何も言わずに首肯した。


 ホロは自分の家にいるらしい。


 幼少のころ魔物に両親を殺されて以来、ホロが一人で住んでいた家だ。何回か、というか何度も止まったことのある家だし、ホロが返ってくるまではと、俺が部屋を掃除していてもいた。


 少し会うのが怖くなりながらも、重い足取りになりながら俺はホロの家の前までつき、その扉をノックする。


「はーい、入っていいよ」


 少し大人びただろうか。あの日の記憶のホロの声よりもどこか落ち着きが垣間見える。けれど気落ちした感じはなく、懐かしい平生のホロの声だった。

 どこか安心を抱きながらドアを開けると、理解は遅く、けれど俺はその姿に絶句をしてしまった。


「あっはははは、なにその顔。変なの」


 前まではなかった、大きなベッドは、ソファーのような背もたれがあり、彼女はそこにゆるりと存在していた。

 ただ何かを羽織ることもなく、白い端麗なワンピースを纏っていた。


 ただ、彼女の腕と足は存在をなくし、ただ持たれているホロの姿を認識するのに少しの時間を要した。


「おま、それどうし...」


 最後まで言葉を紡ぐことができなかった。


「まずはさー、驚くよりも先に世界を救ったことをほめてよねー? 頑張ったんだから」


 唇を尖らせる彼女は、本当に当人の現状に何も感じていないといった風な雰囲気がみられるが、強がっているのだろうか。


「そう、だよな。ありがとう、でいいのか?」


「ふふ、なにそれ。前みたいに頭をなでてくれてもいいんだよ?」


「撫でるって、もう大人だからな。ホロは」


「えー? こんなに頑張ったのにねぎらいの一つもないの?」


「...わかったよ。」


 俺は一歩ずつ彼女に近づき、そっとその頭の上に自分の手をのせる。さらさらとした髪を前みたいにわしゃわしゃと撫でると、きゃーっとどこか嬉しそうに、懐かしむよう言う。


 なんと声を掛けたらよいのか、正直わからなかった。なぜそうなってしまったのかとか、これからどうしていくのかとか。


 ただ、俺はひた隠さなければならなかった。自分の感情を。


 俺はホロのこの姿を悲惨だとか、かわいそうだとか、そういう感情は一切沸いていなく、ただひたすらに情欲ばかりが沸いていることに、驚愕と、羞恥が入り混じっていた。

 俺は、ホロのこの四肢のない容姿に対して、ひどく欲情していることに気づいてしまった。


「よく、頑張ったな」


 俺は平生を保てているだろうか。今のこの状況で平生を保つのも、どうかとは思うけれど。

 

 

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