EP18.5「観測理論(後編)」
新しく取ってきたコーヒーを1口含み、周りの様子を確認してから小声で話し始めた。
「それじゃ、現創同一視性症候群について、話をするとしようか。精神疾患のひとつだと思われているこの症状は、2000年代に入ってからの脳波観測等によって、他の人よりも、脳が活発に動いた結果、通常では感知できないような僅かな現象すらも認識できるようになるという、先天性の……いや、病気では無いな、分かりやすく言えば、第六感が具現化している状態だ」
そう言うと、なにやら箱と飴、チョコを机の上に出す。
「さて、これがどう影響するかと言うと ここに飴とチョコがあります。ユイノから見えない様に片方だけ箱にしまって、では箱の中身は?」
シュレディンガーの猫の実験か、確率は1/2、この場合は直感に頼るべきだな。
「中身は 飴玉」
そう聞くと、クロポンは箱の中身を取り出してみる。
「……。正解だ、よくわかったな」
何だ外して欲しかったのか?
「さて、今 飴を選択して、実際に飴が出てきた。これから箱の中身は飴 という事が、ユイノはわかる」
と、ここでちょうどカウンターに座って影でタブレットを弄っていであろう、ミナセをチラッと確認すると、なにやらタブレットを弄っている。
<クロポン:ミナセちょっとテーブルへ>
「ユイノは箱の中身を知っているけど、聞かれたらチョコと答えてね」
クロポンは飴を箱の中に戻すのと同時に、ミナセが手ぶらで来た。
「店員として、ではなくボク個人として呼ぶという事はそのお話の関係かな?」
ミナセは両腕を腰の辺りに宛てて、飽きれた感じのようだ。店員として呼んだんならちょっとしたクレーム案件だぞ。
「さてミナセ、ここに箱のがある。中身は飴かチョコか、どっちだと思う」
ミナセは少し間を置いてから、クロポンの顔を見てから答える。
「アメ、チョコは箱の中で溶けると悲惨だから入れていない」
成程、そう考えるか。
「ユイノ、答えを」
クロポンに事前に言われた通りの答えを言う。
「中身はチョコ、飴玉はお客さんから貰っても食べずらいから持ち歩かない」
ミナセの考え方を真似て、クロポンの仕事柄を考えて答えを出す。
「正解発表だ、中身は……チョコだ」
は?
「さて、1回お前らRPFのゴーグルを外したらどうだ、四六時中つけていると目ん玉に疲れちまうやろ」
メガネを外すとそこには 飴玉があった。クロポン、偽造アイテムを使ったな。
「クロポン、何が言いたいの?くだらない事なら戻るよ?」
ミナセが再びゴーグルをおでこの上から下げると、隣の空席の僅かに乱れたペーパーを整える。
「言いたいことは簡単だ。これを通して実在するものを見ても、それがホンモノである確証はない。そしてARゴーグルによって歪めて観測された事象が大量に重なれば嘘も事実となってしまう」
ん?まてよこの現象ってまさか……。
「RPF用の観測システムには 気温や湿度 生体電気を観測する機能があるって噂だ。もしそれがプレイヤーにも反映されるというのであれば」
それだと実際には起きていない事象も発生している事になってしまう。
「まぁ、こんなサングラスみたいなARゴーグルでそこまで介入できるのかって話だけどな」
仮に出来るのであれば、仮想も現実と全く同じに見えてしまう。でも、実際に人体以外の物質への影響はどう説明する……?
と、ここで静かな摩擦音……スマホのバイブの音が聞こえる。
「すまん、会社からの呼び出しだ。じゃまた今度」
クロポンはそう言うと、机の上の空いた容器などをトレイの上に纏め、タブレットをカバンの中に仕舞うと、足速に店を出ていった。
あぁいう所は手馴れているんだからなぁ。
でも、確かにクロポンの仮説は面白いな。今起きている事の説明が少しは楽に出来そうだ。




