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第十七話 迷宮攻略③

「着いたぞ」


 そこは宝物庫というには余りにも厳かな空間であった。

 神殿を思わせる構造の建造物と中央に位置する三つの台座。

 物語でお馴染みの金銀財宝などはどこにもないが、それぞれの台座に置かれたアイテムが光を反射して神秘的な雰囲気を醸し出している。


「あの台座に飾られてるのがこの迷宮の宝でいいんだな?」


「そうじゃ。ズィルバーク王国にとって特に重要な三つの宝を保管しておる。右のが宝剣レスティンギル、そして真ん中にあるのが時空石じゃ。左のは……おぬしらが知る必要もないじゃろう」


「ええ。私たちとしては時空石さえ手に入ればそれでいいわ」


「そうじゃったな。そこで少し待っておれ」


 ジャストラーデは台座に近づくと、三つの宝を持って戻ってきた。


「これが迷宮の宝じゃぞ。誰が渡せばいいんじゃ? 別に誰が受け取っても儂は構わんぞ」


「――だったら俺様が受けとるぜ」


「ふむ。おぬしか」


「ああ、俺様もこの迷宮を攻略した者の一人だ。受け取る権利くらいあると思うぜ」


「そうじゃな。他に欲しい者がいなければこやつに渡すが………」


「どうせ後でアキトに渡すんだから誰でもいいわよ」


「おぬしの言う通りじゃな。ではこやつに託すとしよう」


 ジャストラーデは正幸くんに迷宮の宝を渡そうと手を伸ばす。

 だが、何を思ったのかすぐに手をひっこめた。


「………どうした?」


「いや、おぬしにはこやつを求める動機を聞いていなかったと思ってな。今一度聞いておこう。おぬしは何のために時空石を求めるのじゃ?」


「はぁ……こうなっちまったら仕方ねえな」


 ジャストラーデの問いに答えるわけでもなく、意味深な笑みを浮かべる正幸くん。

 次の瞬間、辺りに血しぶきが舞った。


「え?」


 それは一瞬のことだった。

 正幸くんが軽やかに短剣を抜き、ジャストラーデの体を両断したのだ。

 余りにも唐突にすぎる行動に俺たちは誰も反応できていない。

 俺たちが事態に気が付いたのは剣から発生した衝撃波でジャストラーデが壁に叩きつけられた後だった。



「ジャストラーデ!」


「ぐふ……儂としたことが油断したわ」


「っ!?」


 ……ひどい。

 胸がばっくりと割れている。

 それだけじゃない。

 雷に打たれた時のように全身に魔力が流れ込んであらゆる部位を破壊している。

 これではもう…………


「……儂のことは気にするな。それよりも今は…………ぐふっ」


「もういいわ。しゃべらないで!」


「ふっ……小娘にまで気を遣われるとはな…………小僧。おぬしに迷宮の宝を託す。儂に代わって当代の王に届けてくれ」


「わかった」


 ジャストラーデのぼろぼろの手から俺たちはそれぞれこの迷宮の宝物を受け取る。

 それを見届けると、ジャストラーデはキレイな光になって消滅していった。


「なんでよ!」


 静けさを取り戻した迷宮に響く小春の悲痛な声。


「どうしてジャストラーデを殺したのよ!?」


 怒涛の勢いで詰め寄る小春に対し、正幸くんはあっさりと答えた。


「俺様の野望のため、ひいては世界を繋げるためだ」


「世界を繋げるですって?」


「ああ、お前らと違って俺様には帰るべき世界が二つある。その二つの世界を繋げるんだよ」


「それは……どういう」


「もー物分かりが悪い人ですね。正幸様にとってこの世界は二つ目の異世界ということです」


 呆れたとばかりにわざとらしく肩をすくめるセシリアちゃん。

 彼女に続いて他の二人も口を挟む。


「正幸様はこの世界に来る前、私たちの世界にいらっしいました。そして魔王を打倒し世界を救ってくださったのです」


「……正幸は英雄。私たちの世界にとって欠かせない人物。でも正幸にも故郷はある」


「日本のことか」


「そうだ。セシリアたちの世界を救った後、俺様は日本に帰る手段を探していた。そうして実験を繰り返している内にこの世界に迷い込んじまった」


「んでこの世界に来て時空石の存在を知ったと」


「そういうことだ。何でも時空石があれば自由に異世界転移ができるそうじゃねえか。だったら何も帰るだけなんてけち臭い考えにこだわる必要はねえ。時空石を持ち帰って日本とセシリアたちの世界を繋げちまえばいい」


「じゃあ、あんたは最初からアキトとの約束を守るつもりなんて……」


「ねえよそんなもん。馬鹿正直に城に持ち帰ったらそのままこの国の奴らに接収されるのがオチだ。あいつが時空石を他の世界に持ち出すのを許可するわけがねえ」


「だとしても他に方法はあったはずよ! ジャストラーデを殺す必要はなかったでしょ!」


「甘いな。ここは異世界。弱肉強食の世界だ。日本での常識は通用しない。それに最大の脅威を最優先で排除するってのは別に不思議なことじゃねえだろ?」


「くっ………」


 まずい。

 正幸くんの言動から考えて話し合いで解決するとは思えない。

 どうにかしてこの場を切り抜けないと。

 なんて考えこんでいたからだろうか。

 俺は小春の様子に気付かなかった。


「――動かないで」


 正幸くんの喉元に魔力で構成された槍を差し向ける小春。

 対する正幸くんは自分を睨みつける小春を涼しい顔で眺めている。

 両者の間に漂う雰囲気はまさに一触即発といった感じで、事態が最悪の方向に向かっていくのがわかる。


 だけどこうなってしまったらもう止められない。

 下手に俺が小春を止めに行こうとしたら、正幸くんに二人ともやられる恐れがある。

 俺は黙って事の成り行きを見守るしかなかった。



「おいブス。なんのつもりだ?」


「ジャストラーデを殺し、時空石を奪おうとするあんたを許すわけにはいかないわ。このまま地上に連れて行ってしかるべき場所に送り届けるのよ。そこであんたの罪を裁いて貰うわ」


「はぁ…………仕方ねえな」


「ちょっと! 聞いてるの!?」


「ああ、めんどくせえ」


「だから動かないで言って言ってるのよ! これ以上動いたら…………」


「――強奪(バンデッドハンド)


 小春の警告を全くに意に介していないのか、正幸くんは自身の喉元に向けられた光の槍に手を伸ばす。

 次の瞬間、その手には小春が持っていたはずの槍が握られていた。


「い、一体何が起きてるの!?」


 驚く小春に正幸くんは見せびらかすように奪った槍を突き付ける。


「これが俺のスキル・強奪バンデッドハンドだ。たった今、お前のスキルは俺様の物になった」


「そ、そんな馬鹿なことがっ!? ライトニング…………っ!?」


 小春は慌てて詠唱を始めるが、何も起こらない。


「どうして? どうして魔力が形にならないのよっ!?」


「何度やっても無駄だぜ。それは()()()()()だ。どれだけ足掻いてもお前にはもう使えねえよ」


 自分の力を誇示しながら正幸くんは一歩前に出て、


「――チェックメイトだ」


「え?」


 そして呆然とする小春に突き付けられる光の槍。


「っ!」


 俺は本能的に小春の前に割って入り、槍に腹を貫かれた。

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