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1.すでに異世界転生が事件である

「――事件だ。さあ、行くぞ。」


目の前の男がおもむろに立ち上がり、手を差し出す。


「ん? その手は何? え、俺も一緒に行くの?」

「もちろんだとも。君は僕の相棒―――ワトソンだからな。」

「はあ、ワトソンじゃないんだけどなあ……。」


順一は、仕方なしにその手を取る。


嫌がったら最後、いつもの長くて理屈っぽい退屈な話が始まるからだ。時間を無駄にしているうちに謎が逃げてしまう………なんて思うのは、彼に感化されてしまったからだろうか。

順一は自称"シャーロック・ホームズ"とこの異世界で出会ってから、ちょっとだけ諦めが早くなった気がするのであった。





光原順一はいわゆる"異世界転生"してこの国にいた。


今から150年ほど前、亡き帝国が世界統一を目標として掲げて近隣を蹂躙するために、不思議な力やスキル・魔法をもつ異世界のニンゲンを闇雲に召還したたのだ。

そのときに生じた高エネルギーと次元の裂け目により帝国は消滅。代わりに―――と言っていいのかわからないが―――この世界ではときおり異世界で死んだはずのものが、その記憶と姿を留めたまま"異世界転生"してくるようになったのだ。

もちろんこの世界の異物である異世界人をこの世界の人々は排除しようとしたり、迫害したりしてしまうのは世の(ことわり)かもしれない。しかし、黙ってやられてばかりの異世界人ではないため痛ましい事件や争いはこの150年絶えずに続いていたのであった。


しかし、順一のいる【ガーダルシア】では未知の技術や新しい知識を求め異世界のニンゲンを取り込みを100年ほど前から行っていた。当時暗殺誅殺なんでもありな感じで王位継承で荒れていた小国で弱小と呼ばれた第四王子が、忠臣である異世界人と共に纏め作り上げたのがこの【ガーダルシア】である。そんな経緯から新しいこの国では積極的に異世界人と融和をはかったが、なかなかうまく行かず争いはたえなかった。

しかしある時、王となった第四王子が"生まれも育ちも違うんだから、ちょっと離れて暮らしたらうまく行くんじゃね?"と言ったとか言わないとか。それを聞いた"土魔法"の属性を持った異世界人が、一夜で区分けした都市を造ったと言われている。

そんなわけで【ガーダルシア】は王とその周りのものがの住まう王城地区と、貴族のすむアルファ地区、異世界人の居住地区であるベータ地区、商人・職人の活動する工場や商業地区のあるガンマ地区、現地人の居住地区デルタ地区などに分かれて生活を始め、次第に平和な今の形に落ち着いていったのであった。

ちなみに一夜で作ったせいかどうかわからないが、【ガーダルシア】にはマイクラの豆腐建築みたいな四角い建物が多く、まるでビルがならぶ現代日本の都会のようで、異世界に転生してきた実感は順一的には少なかった。


令和の日本に生きていた順一は3年ほど前、トラックに引かれて死んで転生――いわゆるトラ転をしたわけだが、運良くガーダルシアに転生したために非常に恵まれていた。

「区分け」して住むこの国らしく、異世界人でも同じ世界の同じ地区ごとに住めるように配慮してくれる。順一はもちろん地球のアジア区画であった。

隣には日本の江戸時代後期から転生した家族(江戸の大火で死んだらしい)が住んでおり、反対となりには清の頃の中国人夫婦(戦争で死んだそうだ)の料理人が住んでいる。裏にはベトナム人の兄妹(彼らも戦争で死んだらしい)が暮らしているし、近くの四角いアパルトメントには順一の時代に近い若者の日本人(事故死の子が多いようだ。不思議と自死のものはいないのだ)が何人も住んでおり、町内だけであれば黒髪黒目の平坦な顔で安心する顔ぶれであった。

ただ、このレンガ造りの四角い建物が並んでいる町は実に都会的で、木綿の着物姿で歩く隣の源さん妙さんや坊主頭とおかっぱの子供達や、張さん一家の満州服との不釣り合い感は半端ないが。


今朝も妙さんが暖炉の火の上に黒い鉄の鍋を鍋蓋をしっかり閉じて、ごはんを炊くよいにおいをさせていた。彼女は毎日多めに炊いて握り飯にして、順一や中国人の張さん夫婦にも朝ごはんのお裾分けしてくれるのだ。

保育園のないこの世界で、妙さんは張夫妻の産まれたばかりの双子の赤ちゃんを預かっている。代わりに職人街であるガンマ地区の彼らの開く食堂で、源さんの蔵元で働く職人たちの昼食をほとんど無料で出して貰っているそうだ。源さんは転生した10年ほど前からガンマ地区で醤油をつくる蔵の親方をしている。もともと転生前からしていた仕事だったらしく、"醸造"というスキルを駆使して様々な商品を産み出している。醤油、味噌、日本酒……お陰で食生活は豊かだ。

妙さんは"家事"のスキルで近隣の世話まで引き受けてくれる。掃除が下手くそな順一の家もたまに妙さんが掃除や片付けをしてくれるのだ。超助かる。

張さん夫妻は"料理"というスキルで食堂を経営している。日本人が多めの町内のせいなのか、ラーメンや餃子などは完全に日本の中華料理っぽくなっている。まあ元も料理人でもなんでもなかったそうで、周り(日本人)のリクエストで料理をはじめたのだから、なるべくしてなった日本風中華料理店なのである。





順一は、というと―――"観察"というスキルを持っていた。鑑定の下位スキルと思われており、スキルを使うと例えば「今は緊張している」「明るく振る舞っているが、実は落ち込んでいる」といった風に、簡単な情報を観ることが出来る。人に対してしか使えず、その上ショボすぎて使い道もない。どう使っていいのか悩みいろいろ試行錯誤の結果、異世界転生したばかりで混乱しているひとをホームステイさせ、この世界に馴らしていくという仕事をしている。観察を使って異世界に適応出来たと観察されたら、ホームステイ終了である。自立まで見守る仕事だ。

先日まで韓国から転生したキムさんと生活を共にしていたが、彼は"破壊"という攻撃的なスキルを持っていたため、冒険者になると出ていったばかりである。"破壊"は魔力を放出するのではなく、体内――主に筋肉に作用する身体強化魔法の一種で、その強化された腕力で全てを壊してしまうスキルであった。

スキルのせいとはいえ、家のいろんなものを破壊していくのには閉口させられたが、無事にコントロール出来るようになり、この世界での存在意義を見つけられて本当に良かったと思う。彼は賑やかだっただけに、少し寂しいけれども。

キムさんだけでなく、攻撃に特化したスキルを持つものは非常に多く、彼らの殆どが冒険者を志す。身分と金を手に入れるのに一番手っ取り早いからだ。

それだけではなく、ゲームに感化された現代人の転生者には「冒険」というものがかなり魅力的なようで、喜んで迷宮(ダンジョン)へとむかっていく。キムさんも順一と近い時間軸の人間でゲーム好き故の選択だったようだ。


「危険を犯してまで迷宮(ダンジョン)は嫌だけど、まあ、恩恵はありがたいよな。」


順一はお気に入りのM48モッズコートを羽織ながら、迷宮(ダンジョン)へ思いを馳せる。転生した日に着ていたものだ。ボーナスをつぎ込んで購入した古着のレアモッズコート。古着だから元々ボロかったのにトラックに引かれたもんだからこの世界に着いた時にはさらにダメージでほぼ布切れであったが、迷宮(ダンジョン)の宝箱からたまにでる宝珠(オーブ)の恩恵で新品同様になったのだ。リターンの宝珠(オーブ)は時を戻して元の姿にするという効果がある。ポーションのようにポンポンと出るようなアイテムではないためちょっとばかり高かったが、元の世界のモノはこちらにはない。異世界人は持ち込んだものにリターンを使うことは良くあるため、ベータ地区では良く売られている宝珠(オーブ)でもある。

ちなみにキムさんに破壊された住宅もリターンで直したので、なかなかの便利さである。区のお仕事(高給取り)をしてなきゃこんなに気軽に使えないけど。


順一はこちらの素材でも元の世界の服を着てみたかったため、服飾ギルドにこのコートを持ち込んで新しいモッズコートをオーダーメイドしたりもしている。

レッサードラゴンやシーサーペントの皮など、迷宮素材でカッコいいだけでなく、色んな効果のついたモッズコートはちょっと楽しみである。

現在、順一愛用ブーツは先人たちの持ち込んだドクターマーチンのジェイドン8ホールをこちらの魔物であるブラックサーペンスの革で再現したものである。ゴツさはあるが、なかなかの再現度である。ちなみにグラビティの効果でちょっと重たい。これで修行した気分になれる順一はドラゴンボール世代だ。

それから、すでに再現されている黒のスキニージーンズに赤と黒のボーダーのセーターを着ていれば、衣服だけでも令和の日本とかわりはない。


「今度は家を破壊しない住人だと助かるけど――……どうかなぁ。」


ブツブツ呟きながら、順一は地区センターの入り口を潜る。

地区センターは巨大な時計塔の建物で、ベータ地区の人間すべてをまとめている施設だ。現代日本でいう区役所や市役所のような施設ある。住人登録や転居届・婚姻届・離婚届・出生届など各種届出を出したり、税金を納めたり、来たばかりの異世界人のセイフティーサポートを行ったりする。セイフティーサポートは日本でいう生活保護のようなもので、順一はこちらの委託職員である。

今日はセンターから連絡が来て、呼ばれたのであった。

新しい住人を受け入れるよう要請があったためだ。


そこで出会ったのが、日本人にしか見えない外見の自称シャーロック・ホームズであった。


勢いで書いた。ちょっと後悔している。

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