表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルヒェン  作者: 和久井暁
5/5

女王と、狩人と、白雪姫の場合完結

「師匠!」

厩舎と反対側の井戸に出ていた狩人に、白雪姫は声をかけた。

「白雪姫、厩舎はどこですか? どうやら嘘の場所を教えられたようで」

明らかにイライラとした様子の狩人に白雪姫は言った。

「私もついていきます! 師匠に精霊を殺させない為に。 殺さななくとも救える方法を探しましょう!」

「何を言って……」

「殺させません! 狩人には、貴方には殺させないし、私も殺さない。 お母様が起きて、哀しみに暮れるような真似させませんからっ」

「!」

狩人はその言葉に理解したのか。 拳を硬く握り締め、俯く。

「それに狩人にはまだ希望が残されています。

愛する人のキス。 これで目覚めたら、万事解決でしょ?」

白雪姫は狩人の手を引っ張り正しい厩舎に向かう。

「さぁ、急ぎましょう! 師匠」

すっかりいつもの白雪姫に戻っていたことに、狩人は少し肩の力が抜けた。


馬に乗った2人は急ぎ馬を走らせる広大な精霊の森の林檎の精のもとに着いたのは朝日の登る頃だった。

大きく空に枝葉を広げる林檎の木に向かって狩人が声を張り上げた。

「林檎の精貴女は全て知っているのでしょう!姿を見せてくださいっ」

「あら、狩人じゃない。 馬を飛ばしてきたの? 思ったより早かったわね」

赤い髪にエバーグリーンの瞳、ピンクから赤へとグラデーションで変わっていくワンピースを着た林檎の精。

狩人と白雪姫は林檎の精の前に対峙した。

「あら、貴女なんでここにいるの? 眠ったと思ったら、林檎を食べたのは貴女じゃなかったのね」

さして興味も無いように林檎の精は言った。

「お願いします、林檎の精! お母様を助けたいの、元に戻す方法を教えてください!」

「え、嫌よ。 なんであんたなんかのお願い聞かなきゃならないの? そもそもアンタが私のお気に入りに近づいた罰でしょ?

アンタの母親なんて衰弱して死んじゃえばいいのよ」

鼻で笑うように言った林檎の精に、狩人も嘆願する。

「お願いだ、林檎の精。 女王陛下を助けてほしい。 あの方が必要なんだ。 頼みます」

平身低頭してお願いする狩人の姿に冷ややかに林檎の精は吐き捨てる。

「ふんっ、目をかけてやったのに。 恩を忘れて……。

それに誰に必要(・・)かなんて言わないのね。 狡い男、お前の顔など見たくもないわ」

「確かに私は狡い。 あなた方精霊に愛され、その恩恵を受けていたのに。 他の女性に恋をし、勝手に死ぬつもりでここに来ました。 でも死に逃げるのはやめます。 ただ、真摯にお願いしたい、女王の呪いを解く方法を教えてください」

「知らないわよ。 私だって解き方知らないもの。

ねぇ、私を殺さないの? 殺したら術者死亡で解けるかもしれないわよ?」

悪魔のような精霊だった。

平身低頭してお願いする狩人の耳元で囁く様は、死んでも許さないと言う悪魔のような言葉だ。

「馬鹿だねぇ、人間に牙を向けた時点でアンタは精霊達の理に反してるから。 どのみち死ぬわよ」

狩人と白雪姫の後ろから女性の声がして振り返る。

そこにはたくさんの精霊達がいた。

「何ですって? なんで私が死ななきゃならないのよ⁉︎」

「当然でしょ、精霊達(わたしたち)にもルールがあるの。 あなたはそれから外れたのだから罰を受けるのは当たり前。

狩人、白雪姫、こんな所まで来てくれたのに有意義な情報を持ってなくてごめんなさい。 同じ精霊として謝罪するわ」

「どうして精霊様方が……?」

呆然と呟く狩人に精霊達は謎めいた笑いを浮かべた。

「ふふふ、頼まれたのよ。 古い知り合いにね。 さぁ、もたもたしないで急いで帰りなさい。

まだ試してないことあるんでしょう?

ダメだった時は私たちがこの子にしっかり責任を取らせるから」

「はい、ありがとうございます。 それでは失礼します」

「ありがとうございました」

狩人と白雪姫は挨拶もそこそこに馬に乗りまた来た道を戻っていく。

「さて、あなたも裁きの場へ行きましょうね」

「……」

「馬鹿ねえ、こんなことさえしなければ幸せになる道もあったかも知れないのに」

呆れたように言う精霊達にがっちり囲まれて、林檎の精達は姿を消した。


狩人と白雪姫は城に戻ってくると、鏡の精が待っていた。

「お早いお帰りで、やはり林檎の精は何も知りませんでしたか」

「精霊達の言っていた古い知り合いとは鏡の精のことだったのか!」

「私も精霊の端くれ。 今回のことは精霊王様に報告しております。」

「ありがとう、鏡の精。 でも私たち林檎の精の元に行く必要あったのかしら?」

「林檎の精が解き方を知っている可能性もありましたからね。 念の為必要な事でした。

狩人殿も覚悟が決まったでしょう?」

「あぁ、ありがとう。 それで……」

「女王陛下の元へ、ですよねご案内します」

城の尖塔の最上階、国王夫妻の寝室ではない一室に女王は部屋を構えていた。

落ち着いたクリーム色の壁紙に、青い厚手のカーテンが掛かっている。

すっかり日が昇り、外から漏れる日差しに照らされて本当にただ眠っているようだ。

「ではごゆっくり」

白雪姫は駆け寄りたそうにしたが、グッと堪えて寝室に入る狩人を見送った。

狩人はベッドの横に用意された椅子に座り、女王の右手を握った。

「私は貴女を失いたくない。

貴女のいない世界は色もなにもなくて、寂しく、味気なくて。 私には貴女が必要なんです。

私の元に帰ってきてください。 また貴女の笑顔が見たい。 あなたの声を聞きたい。

貴女と共にありたい。 神よ、いるならば私の我儘をお聞き届けくださいっ。 貴女を愛してます、女王陛下」

涙を零しながら静かに慟哭した狩人は、そっと女王の唇に唇を寄せた。

暖かく、柔らかな感触に名残惜しさを感じながらも、唇を離す。

やはり自分ではダメなのか……。

そう思い落胆すると、

「かりうどさ……ん?」

ぎこちなく狩人を呼ぶ女王の瞳は、驚きに満ちた狩人を映していた。

「良かった! 女王陛下、良かった! もう会えないかと思い怖かった。 貴女を失うことに耐えられない自分に気がついた! 本当に良かったっ!」

良かったと、椅子を倒しながら狩人は、半身を起こした女王の手を包み込み縋りついた。

ポロポロと涙を零しながら喜ぶ狩人に、女王は困惑と混乱しながらも言われた言葉の内容を噛み締めていた。

「お母様!」

外で待っていた白雪姫や鏡の精も中に入ってくる。

白雪姫なんかは特に大泣きして喜んだ。

鏡の精にも心なしか目に光るものがあった。


一年後


国中をあげての祝賀パレードがある。

今日は女王陛下が新たに婚約者と結婚する日だ。

婚約者は公爵家出身の森番だった青年。

剣と魔法、何より弓矢の腕前を買われ先代の森番から指名された青年。

最初は何かと慣れなかったが、数年で青年は立派な成長を遂げる。

ある日、森の中で足を挫いた貴婦人と青年は運命の出逢いを果たす。

その貴婦人こそが女王、そして森番の青年こそ狩人だった。

この運命的な物語は白雪姫の号令の元、一般に広く流布され、今では劇場や、書店で劇や物語として広く知られるようになった。

こうして国民の祝福の中、女王と狩人は無事結ばれた。


めでたしめでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ