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メルヒェン  作者: 和久井暁
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女王と、狩人と、白雪姫の場合4

それから城は蜂の巣を突いたように大騒ぎだった。

とにかく落ち着いたのは夜になってからだった。

会議室に近衛騎士団の団長、宮廷魔術師長、医師、鏡の精、白雪姫、そして狩人が集まった。

「近衛騎士団長、商人の素性は何かわかりましたかの?」

宮廷魔術師長が問うと、近衛騎士団長は静かに首を振った。

「いや、さっぱりお手上げだ。 商会に踏み込んでも中には大量の林檎と泥だけだった。

おそらく店員から商会員まで泥人形だったのだろう」

「林檎とナイフは事前に持ち込みを許可されていたとか?」

「えぇ、事前に連絡があり商人の持ち込んだものは林檎とナイフだけでした。 ナイフも辛うじて林檎が切れるくらいの刃渡りでしたし、毒物を塗ってないかは事前に検査しました。」

苦い顔で答える鏡の精に、近衛騎士団長は鋭く指摘する。

「これは鏡の精殿に大きく責任がありますぞ! 何より怪しい林檎を調べないとは」

「ごもっともです。 毒味でわかると高をくくった責任は私にありますでしょう」

「とりあえず! 落ち着いて確認しましょう。

宮廷魔術師長、フォーク、ナイフ、皿、林檎どれから毒は検出されたの?」

白雪姫は一段と声を張り上げると、宮廷魔術師長に尋ねる。

「ふむ、毒はどれからも検出されませんでしたぞ?

強いて言えばあれは呪い。 呪術の類ですじゃ」

「呪術? ならば毒の検査もすり抜けると言うことか?」

「左様。 しかし人間に呪術は使えぬ。 何代か前の女王陛下が、継子姫を殺そうと毒薬を作った折、返り討ちにあい製法はもちろん、扱う人間も狩られたからの」

血生臭い歴史じゃよ、とのほほんと呟く。

「それなら人間に使えないなら何故こんなことになっているの?」

「実は失念していた事実がありますじゃ。

先ほども言ったように何代か前の女王が作った毒林檎がかかわってきますのじゃ。

毒林檎は継子姫の夫となった王が回収したのですがら一つだけ、キツネが盗んでいきましたですじゃ」

「つまり?」

「食べたキツネは死に、その体を苗床に種が発芽したものがどうも精霊の森にいるそうですじゃ。

嫉妬深い精霊で、代々の森番は気をつけるように言われるとか。

林檎が使われていることからまず間違いはないですじゃろう」

「つまり何代か前の女王が作った毒林檎は呪術でできている。 だからその毒林檎が育ち精霊となった存在は呪術も使える……と? 面倒くさいわね」

「おそらく、女王にかかっている呪いも、永遠に眠るものですじゃ。 ただ本心から愛する人のキスで目覚めるかはわかりませんですじゃ」

「精霊は目覚めるすべを知っているかもしれないのね?」

「左様ですじゃ」

「なら会うしかないわね! 狩人、案内よろしくね」

「……」

狩人は何も言わずに廊下に出た。

ブツクサいう面々を放って、白雪姫は狩人を追いかけた。

少し離れた廊下にいた狩人は鋭い目をしていた。

同時にどこか張り詰めたような緊張感もある。

「白雪姫、君は女王のそばに残りなさい」

いつもと違う硬質さを含んだ声だった。

「何故? 私が謝ればお母様は元に戻るのよね」

表情にも、声にも不安が滲む。

「最悪争いになるかもしれない。 精霊殺しになれば大罪だし、処刑は免れない」

「そんな……、そんな覚悟をして。 師匠はどうするの?争いになったら、勝てるの? まさか殺すつもりでいるの?」

「……謝ったところで女王陛下が元に戻る確証はない。 それに最悪、精霊を殺せば術者が死んだことで呪いが解けるかもしれない。

白雪姫、貴女に人は殺せない。 貴女が殺せば女王陛下は悲しむだろう。 だから、残りなさい」

拳を硬く握り締め、踵を返した狩人を白雪姫は追いかけられなかった。

得体の知れない恐怖に呑まれた。

まさにその言葉がピッタリだった。

「何をしているのです?」

後ろを振り返ると、鏡の精が立っていた。

「師匠が……、狩人が行ってしまったの。 最悪、精霊を殺すつもりだって」

「ほう? それで白雪姫は何をぐずぐずしているのです?」

「だって、私、止められないわ」

「女王陛下が大事だから? 狩人ほどの決意がないから?」

ズバズバ言う鏡の精にむくれながら白雪姫は答える。

「両方よ」

「はぁ、白雪姫冷静に考えてください。 女王陛下に好きな方を処刑させるつもりですか?」

「えっ?」

「狩人が精霊を殺して女王が目覚めたとしましょう。 でも精霊殺しは例外なく処刑の重罪です。

目が覚めた女王陛下は、自分を救う為に禁を犯した狩人を処刑すると言う地獄に突き落とすおつもりですか?」

「そんな……。 そんな酷いことさせれないわ。 止めなきゃ!」

「えぇ、そうです。 愛する人を失う瀬戸際の狩人もまた冷静ではありません。 貴女がついて行って彼を止めなければ、簡単な目覚めの方法すら試せないのですよ?」

「? そんなのあったかしら……」

「愛する人からの口づけ。 何代か前の継子姫が王子のキスで目覚めたでしょう? まだためしてもないじゃありませんか」

「あっ、あぁ! なるほど、そうね! なら首に縄つけてでも連れ帰らないと」

「わかったなら早く行ってください。

後任の狩人の推薦状なんて残していくから、厩舎を別の場所を教えたのです」

「ありがとう、鏡の精! あなた素敵ね、愛してるわ!」

「何を言ってるんだか……」

突然告白されて呆れながらも、耳が少し赤い鏡の精は晴れやかな顔で白雪姫を見送った。

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