女王と、狩人と、白雪姫の場合3
白雪姫は普段なら呼ばれない王城の謁見の間に呼ばれて、女王の前に畏まる。
「お呼びでしょうか、陛下」
「白雪姫、そなたに珍しき品物を献上したいと申す商人がある。 横に控えて品を受け取るように」
謁見の間の女王はいつになく凛としていて美しい。
白雪姫は女王の横に設けられた椅子に座ると頷いた。
「次の者をこれへ」
女王が声を発すると、文官が羊皮紙を読み上げた。
騎士によって商人が2人通され跪く。
煌びやかな衣装を身に纏った商人は口上を述べる。
「この度は女王陛下、並びに白雪姫さまに謁見が叶いまして恐悦至極でございます。 珍しき品を手に入れましたので親愛の印にお受け取りくださいませ。
他国の女神達が欲した黄金の林檎にございます!」
芝居がかったような口調で、従者の持っていた赤い天鵞絨の被せを取ると、同じ天鵞絨のクッションの上で黄金に光る林檎が鎮座していた。
「ほぅ、これは珍しい。 文官、受け取り宝物庫に持っていくように」
「お待ちください! この林檎は食用、あくまで食べるためのものです。 ぜひこの場で白雪姫さまにも食していただきたく」
「食べれる……のですか? 純金の林檎ではなく?」
「はい、あくまで食べ物でございます。 失礼して切り分けさせていただきます」
困惑しきる女王に向けて、商人は懐から小さな金のナイフを取り出し、どこから用意したのか従者は皿とフォークを用意し、林檎を皿の上に置いた。
林檎は綺麗に切られ、その内一切れが女王の元に、もう一切れは白雪姫の元に城の者によって運ばれた。
「お毒味をしてない物を食していただくことはできませんから、持ち込みました私めが毒味を致しましょう」
言うが早いか、シャクリと商人は林檎を一口食べる。
「んん〜、なんと爽やかな甘さ。 蜜の滴る新鮮さ! 毒などはないようでございますのはおわかりいただけたでしょうか? さあ、姫さまも一口どうぞ」
そう言った商人から悪寒を女王は感じた。
なぜ姫にばかり固執するのか?
白雪姫を見るとまさに口を開けて林檎を齧ろうとするところだ。
―止めなければ!―
何故か女王はそう思い、次の瞬間には白雪姫から林檎の刺さったフォークを引ったくっていた。
女王としてあるまじき行為だ。 でも何か嫌な予感がそうさせた。
女王が引ったくった林檎を食べると変化が起きた。
心臓が一際大きく脈打ち、目の前が眩む。
次いで視界が真っ暗になり意識が遠のき、ついに意識を失った。
女王の齧った林檎とフォークが乾いた音を立てて落ちる。
椅子からズリズリと転げ、椅子に臥す女王。
白雪姫も、鏡の精も、文官や騎士すら女王の身を案じて動く。
「騎士達! あの商人を捕らえなさい!」
鏡の精の一言に商人に飛びつく騎士達。
しかし……。
「ハハハハッ! 私のお気に入りに手を出した白雪姫よ、罰を受けるがいい!」
若い女性の嘲笑う声が謁見の間に響き渡る。
商人達はどろどろと、溶けて泥となり消えた。