報告
タルタロスさんの依頼を受けてからおよそ2ヶ月後、僕はこれ以上有用な情報は得られないだろうと捜査を打ち切り、タルタロスさんに報告をすることにした。
時々手紙を送って経過報告をしていたのだが、今回は最終報告のために現地へ向かう。
僕が個人で受けた依頼だったからカノンを連れてくるつもりは無かったのだが、カノンが一緒に行きたいというので連れてきている。
まあ片道およそ1日半かかるし、長時間カノンを放置するよりは良かったのかもしれない。
例の大きな川まで到着し、特定の場所を3往復するという相変わらず訳の分からない所作を行う事で石橋を出現させ、タルタロスさんが基地を構える土地へと上陸した。
基地への入り口である岩戸は、僕たちが来たことを察知してか既に開かれているので、誘われるまま中へ入った。
「やあ、よく来たね二人とも」
入ってすぐの部屋にて銀髪白衣眼帯の女性、タルタロスさんが出迎えてくれた。
「どうもお邪魔します」
「タローこんにちわー!!甘いのあるか!!?」
「あっ、さてはお前砂糖目当てで付いて来たな!?」
「そうだぞ!」
魔素体の件で嫌な思い出があるはずなのに何で付いてくるんだろうと思ったらそういう事だったのか……。
「蔗糖だね?あの後多少補充しておいたからあるにはある」
「やったー!」
「いや……なんかすみません……」
そう言ってタルタロスさんは理科室のようなキッチンへと僕らを案内し、カノンに瓶を1つ差し出した。
カノンはそれを受け取り蓋を開け、スプーンで掬ってペロペロと舐め始めた。
ミルク以外でも大人しくなる方法があったのは発見だが、如何せん砂糖は高価だからあまり実用性はない。
保存がきくという点においては緊急時用には良いかもしれないが……。
「ではレイ君、本題に入ろうか。……とはいえ、経過報告の感じ特に状況に変化は無さそうだがね」
「はい、まあ……そんな感じです。報告の通り400年くらい前にはもう禁書扱いになってて、多分本の内容を知ってるのは王宮関係者の極一部って感じですね。騎士団長の人もその内容については特に知ら無さそうでしたし。これ以上進展無さそうだったのでもう切り上げていいかと」
「なるほど、ご苦労だったね。まさかボクの本が禁書なんかになっていたとは……、いやなって然るべきではあったか」
タルタロスさんは湯を沸かしながら言った。
湯の中に適当なのか決まっているものなのか、乾燥させたキノコや葉っぱや良く分からない粉をポイポイ入れて煮出している。
どうやらお茶を作ってるらしい。
僕の分は丁重に断っておいた。
「しかし王宮管理となると回収は無理そうだな……。まあよかろう、悪用されなければいい」
「実は僕、本の内容ちらっと聞いてしまったんですが……、人体実験とかもしてたって本当なんですか……?」
「おや……知ってしまったようだね……?」
タルタロスさんはポケットに手を入れニヤリと口元を歪めた。
僕はその瞬間イスから飛び退き距離を取った。
ジャガイモを別名「馬鈴薯」というらしいですが、この単語が自分の語彙に無かったので「うまりんちょ」と誤読したツイートのせいで「馬鈴薯」としてインプットされてしまいました。