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父親

 それからしばらくお互い無言の時間が続き、波のこそばゆさも無くなった頃、カノンはぽつりと言う。



「本当は、ずっと淋しかったんだ……」



 今まで一人でも十分やっていけていたはずのカノンからそんな言葉が零れる。



「もう一回パパと遊びたい、もう一回パパとご飯が食べたい、もう一回パパとお風呂に入りたい、もう一回……パパに逢いたい」



 カノンは僕の背中にトンと額を預け吐露する。



「そ……それなら故郷に帰れば……」

「帰ってもパパは居ないから」



 次は背中をドンと頭突く。


 帰っても父親は居ない。


 ……つまりそういうことか。


 カノンの言葉から考えられるのは、父親はどこかへ消えてしまったか、既に亡くなっているかの二択だ。


 娘を溺愛していた父親が娘の元を去っていくとは考えにくいし、カノンのこの悲愴さからも後者であることは察せられる。


 思い返せば、父親の事を語る時カノンはいつも過去形で話していた気がする。


 出会った頃カノンは母親と喧嘩して家出をしたと言っていたが、もしかしたら父親が恋しくて代わりになってくれる人を探しに出たのも一因となってるんじゃなかろうか。


 それらと魔王討伐がどう繋がってくるのかはまだ僕には分からないが、カノンがどんな思いで冒険者になったのかはだんだんと分かって来た気がする。



「いっつも私に優しくしてくれて、どこかに行っても見つけてくれて、困ったときは助けてくれて、パパみたいだって思って、ずっとレイと一緒がいいって思った。レイなら他の人と違ってずっと一緒に居てくれるって」



 いつの間にかこんなに信頼されるようになっていたとは。


 でも僕に父親代わりなんて務まる気がしない。


 仮に父親代わりになれたとしても、僕は最終的に元の世界に帰ってしまう。


 その時カノンは二度目の別れを経験することになる。


 そう考えると安請け合いはできない。



「気持ちはありがたいけど、やっぱり僕がカノンのパパの代わりになるのは無理だよ」

「どうして……、私がレイを怒らせたからか……?」

「違うよ、別に怒ってない」

「じゃあ私がもっと言う事聞くいい子になればいいのか……?」

「んー、まあいい子にはなってほしいけど、そういう事じゃなくてだな……」



 なんていうか、カノンらしくない事を言うから調子が狂う。



「ベタな事言う感じになって悪いけど、カノンのパパは一人しかいないんだよ。パパが恋しいのは良く分かった。でもそれを他の誰かで埋め合わせようとなんてしたら、パパが悲しむんじゃないか?」



 カノンは黙って額をぐりぐりと押し付けてくる。


 心の中でどうすればいいか葛藤しているんだろうか。


 しばらくそのままにしておいてやろう。

文を推敲する時だけ時間の進みが通常の5000兆分の1くらいになってほしい。

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