風呂
「ほら、諦めて起きろ。いやまだ早いし寝ててもいいのか?」
「起きたいけど起きれないんだ!」
「布団取り返そうとしてる時点で起きる気無いだろ!」
なんてやり取りをしているうちに、廊下からドタドタと慌ただしい足音が聞こえてきた。
ほどなくして部屋の扉がバンッと開かれる。
「どうかなさいましたか!?」
ジニーさんが部屋に駆け込んで来てそう言った。
昨日よりは幾分か軽装だ、寝間着だろうか?
彼女もカノンの声を聞いて着のみ着のまま駆け付けたという事だろう。
「あ、あの、レイ様……、ご主人様のお屋敷でそういった行為は遠慮していただきたく……」
ジニーさんにやや引きつった顔で言われる。
異常を聞きつけた他の小さいメイドさんたちもひょこひょこと扉から顔を覗かせている。
何のことだ……?
と思ったが、この状況……客観的に見たら朝っぱらからカノンの部屋に侵入して襲ってる構図では……?
「ご、誤解です!こいつが起きれないっていうから……。カノンも何か言ってくれよ」
「動けん!誰か助けて!」
「それは余計誤解を招く!」
挙句には扉裏のメイドさんたちに「やっぱりー」だの「ごーかんまー」だの言われる始末。
ちっちゃい子がそんな言葉を使うんじゃない。
僕はなんとかジニーさんに状況を説明して誤解を解いた。
カノンを起こすために、小さいメイドさんたちが連なって、おおきなかぶでも引っこ抜くが如くカノンの腕を引っ張っていた。
ただ左右から引っ張ったらそれは拷問なのでは……?
「おおおおお!右も左も頑張れえええ!!」
とか言って拒んでないみたいだし放っておくか。
なんか楽しそうだし。
「ではレイ様、湯浴みなどはいかがでしょうか」
「あ、いいんですか?なら是非」
お風呂を貸してもらえるらしい。
ルブルム王国の方に飛ばされてから水でしか体を洗えてなかったから、お湯が使えるのはありがたい。
一応自分で地道に火属性魔法で温める事も出来なくないが、面倒だし長いこと水場を使ってたら怒られるから、今までお風呂に入るなんてできなかったからなぁ。
カノンの事はメイドさんたちに任せて僕はお風呂を借りることにしよう。
「では案内致しますのでご同行ください」
「はい」
そう言って連れられたのは館の端の方。
脱衣所のようなものは無く、タイル張りの部屋の中央に浴槽があり、その中にぬるま湯がなみなみ注がれている。
これからお湯を焚いてくれるらしい。
僕は脱いだ洋服を畳んで部屋の隅の方に置き、ゆっくりと湯に浸かる。
ザバーっと僕の体積分の湯が溢れていく。
湯の勿体なさを感じつつも、今はこの贅沢気分に浸るとしよう。
どうやら五右衛門風呂形式らしく、徐々に下から温かいお湯が沸いてくる。
「湯加減はいかがでしょうか」
「丁度いいです~」
「ではごゆっくりどうぞ」
扉越しにそう聞いて来たジニーさんに返事をして、僕は暫し久々のお風呂を満喫する。
うなぎ食べたい。