解放
たしかにノイルさんにはお世話になってばっかだし、今度食事にでも誘ってみるのもいいかもしれない。
「あの、ところで僕は出してもらえるんですかね?」
「あぁもちろん。今回の事は彼の、オーフェン君の独断によるものだからね。彼の言い分も君を拘束する妥当な理由にはなり得ない」
「助かります……。まさか本を探しに来てこんなことになるとは……」
「いやぁ面目ないね。組織的な責任者として、可能な限り償いはさせてもらうつもりだ。改めて自己紹介させてもらおう、私はハインリーネ・ヴェルトラーデ。ルブルム王国第一騎士団団長を務めさせてもらっている」
第一騎士団……ってつまり権力的に相当なトップなんじゃなかろうか?
少なくともさっきまでのオーフェンさんの反応を見るに、オーフェンさんより上の階級である事は確かである。
それにしても一件の予期せぬ投獄で現地に足を運ぶフットワークの軽さは、王宮の重鎮とは思えぬものだ。
まあ仕事熱心なおかげで、僕はこうして難を逃れられているわけだから感謝しなければ。
「僕は篠原励です。篠原が姓です。普段は冒険者として、この国のギルドの依頼を受けてます。ハインリーネ様には以前、東の大きな川の付近に大量発生した魔物の調査依頼の際に一度お世話になっているので、今回の事は一応水に流すつもりです……」
「東の川……、あぁ!ひと月くらい前の!そういえば引き受けてくれた人の名簿の中に君の名前もあったな。ちなみに報告の後、僕の広域探知魔法で経過を観察していたところ、報告の通り魔物の量はかなり鎮静化されていたよ。その節はどうもありがとう!」
「いえ、魔物を倒したのはほとんど相方の方なので」
カノンが周辺の魔物を手当たり次第に殲滅してくれたおかげで、周辺の魔物はかなり減少したと思う。
憂うとすれば遭遇する魔物をカノンが軒並み狩って行くせいで、他の冒険者の仕事が無くなってしまうのではないかという事くらいだ。
「カノンちゃんのことだね。彼女の事は一応前から知ってはいたよ。天真爛漫な女の子なんだってね?よかったら今度紹介してよ」
「まあ……いいですけど、あいつ魔物と食べ物と岩砕きにしか興味ないので来るか分からないですよ?」
「岩砕き……???」
ダイアンさんに岩の斬り方を教わって以降も、カノンは時折一人で岩を斬る練習をしている。
もしハインリーネ様が軽い剣で岩を両断する技術を知っているなら颯爽と食い付くだろうが、それ以外なら食べ物で釣るしかない。
……食べ物で釣れるなら大丈夫か。
「そういえばタルタロスの……禁書、でしたっけ?あの話ってどうなるんですかね?」
「あぁ、そういえばその申し出の書類が来ていたことも覚えているよ。宮廷管理の本は基本部外秘だから棄却していたはずなんだが……、どういうわけかオーフェン君にその情報が渡ってしまっていたみたいだね」
「そうですか。まあダメ元のお願いだったのでそういう事なら……」
あわよくば本の内容を知っていそうなオーフェンさんと話がしたかったのだが、当人があんな感じだと難しそうだ。
「まあそう落ち込む事は無い。そうだな……、5日後の夕方は空いているかい?」
「5日後ですか?基本僕たちはその日その日でやる事決めてるので予定は空いてますが……」
「そういう気ままな生活も良いものだね。まあそういう事なら是非その日は空けておいてくれるかな?レイ君とカノンちゃんをディナーに招待しよう」
「え、いいんですか?」
騎士団長様に夕食に招待されるなんて一介の冒険者にあって良い事なのか……?
いや、実際に今そうなってるのだからある事なのか。
夕食の誘いならカノンも来ることだろう。
「じゃあカノンにも5日後の夕方から空けておくように言っておきます」
「よろしく頼む。詳しい事は追い追い冒険者ギルドの方に連絡しておくよ。今日のところははひとまず帰るといい、オーフェン君たちの後処理は任せてくれ」
ハインリーネ様はそう言って錠前の鍵を開け、ようやく僕は檻の中から解放されたのだった。
沖縄に行きたい。