稽古
僕との約束を取り付けた後、ダイアンさんはお酒を1瓶追加で注文し、夕飯を食べながら少しの世間話をした。
その後、そろそろ帰る時間だと言って、上機嫌でマーレラさんの店から出て行った。
僕もそろそろ宿に行くとしよう。
冒険者の朝は早い。
今日はあまり疲れても無いし、明日はスッキリと起きられる事だろう。
マーレラさんにお代を払い、僕も店を出た。
ライアンさんの宿に着くと、ライアンさんは受付席でテーブルに俯せになり居眠りをしていた。
アイラちゃんも居なさそうだし、流石にもう子供は寝る時間か。
とは言っても勝手に寝泊まりするわけにはいかないし、ライアンさんには申し訳ないがちょっと起きてもらおう。
「ライアンさん……?受付まだやってます?」
「んが……?あ、寝てねぇ!寝てねぇよ!?……って、なんだ兄ちゃんか」
顔に寝皺を付けたライアンさんは慌てた様子で取り繕う。
さてはマーレラさんかアイラちゃんにいつも居眠りで叱られてるな?
マーレラさんが怒るところはあまり想像できないが……。
まあ僕としては受付をしてくれればそれでいい。
「すみません、今日も泊まりたいんですが、昨日と同じ部屋空いてますか?」
「おう、金さえ置いてきゃ好きに寝泊まりしていいぜ」
ライアンさんはだらんとテーブルに身を預けたまま答える。
僕は昨日と同じく小金貨を支払い、昨日と同じ部屋で就寝した。
それからしばらくは、朝から昼までカノンとギルドの依頼をこなし、昼食の後にダイアンさんと剣の稽古に励み、ライアンさんの宿で就寝する日々が続いた。
時々遠出の依頼でキャンプをしたり、時々休みを取って図書館に行くついでにタルタロスさんの事について聞き回ってみたり、どこかに良いカフェがないか探してみたり。
気付けば早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
「良いわね。アタシの打ち込みにも結構対応できるようになってきたじゃない!」
ルブルム王国の東門から出てちょっと行ったところでいつものように剣の稽古をしていた。
上段からの大振り、袈裟斬り、横薙ぎ、突き、それぞれなんとか受け流したり躱したり。
教わった事はほとんど、相手の攻撃に対してどう対処するかの、受けの技術だった。
「はぁ……はぁ……。でもダイアンさん、手加減してそれですよね……」
「そうね、まあアタシが本気で剣を振ったらこんな棒切れポキっと逝っちゃうし、下手したらアナタの心もポキっと逝っちゃうかもしれないじゃない?」
「僕、意外と根気はある方だと思いますよ?」
リセマラで身に着いた根気だが。
「そもそもそこまでガチガチに鍛えなくても、魔法が使えるアナタは中距離戦闘が基本なんだから、前衛はカノンちゃんに任せて、もし相手に詰めて来られた時に時間稼ぎができる程度の力があれば十分なのよ」
たしかに、その役割分担をできるようにするためのパーティーでもあると思うが……。
「それでももっと剣術を磨きたい、アタシくらいの相手と戦えるようになりたいって言うなら考えてあげるけど。それよりも先に、剣術と魔法を組み合わせた戦い方を上手く扱えるようになった方がいいと思うわ」
「剣術と魔法を組み合わせた戦い方……?」
「アタシは専門じゃないから上手く教える事ができるか分からないけど、ちょっとひとつ試してみてもらおうかしら?」
そう言って、ダイアンさんは荷車から剣を一本取り出し、僕に手渡した。
たまにはキャンプとか行きたいな~とか思うけど、結局ゲームして一日が終わる。