転身
「……と、話を戻すけど、カノンちゃんの戦い方とアタシの流派……、すなわちアタシのお師匠様の剣技はそもそも相性が悪いのよ」
「でもダイアンさんの剣ってたしか基本の型がベースなんですよね?基本が成ってないと応用も何もないって言いませんか?」
「それが事戦いの世界においては例外が存在するのよ。流派も何も無く、独自に編み出された戦法なんていうのは基本大成しないものだけど……。アタシは一人だけ、その法則から外れた人を知ってるわ」
ダイアンさんは腕を組み、やや不満げな表情を浮かべる。
その人に対して何か因縁でもあるかのような雰囲気だ。
「その人って……?」
僕は恐る恐る聞いてみる。
「騎士団長のリーヴァ様って知ってるかしら?第五騎士団隊長。彼女の剣技は飛竜の剣なんて呼ばれてたりするのだけど、たしかに飛竜のような軽やかさと力強さと鋭さを兼ね備えた双剣の使い手よ」
「リーヴァ様……丁度今日ギルドで聞きましたね。ダイアンさんの師匠のオリハルク様と肩を並べて戦ったことがあるとかなんとか……」
「そんなんじゃないわよ。一緒に戦ったのなんて一度だけ。お師匠様とリーヴァ様はライバル……というか、元々は敵同士だったのよ」
「え?でも師匠様は元々王宮で剣の指南役をやってて、リーヴァ様は騎士団長なんですよね?」
派閥争いか何かあるのだろうか……?
とも思ったが、どうやらそういうわけではないらしい。
「リーヴァ様、今では騎士団長なんて役職ではあるけれど、元々は盗賊の頭だったらしいのよ」
「盗賊から王国の騎士団長!?そんなことあるんですか……?すごい転身ですね」
「えぇ、アタシは当事者じゃないから詳しくは分からないけど、その時はお師匠様もまだ騎士団の一員として働いてた頃で、その盗賊団はお師匠様が一夜にして壊滅させたらしいのよ。盗賊団が無くなった後も逃げ延びたリーヴァ様は何かとお師匠様に突っかかって来たみたいで、剣を交える度にどんどん強くなっていったそうなの」
少年漫画みたいな展開だな……。
かつての敵がライバルになって、一時は共に戦ったりもしたなんて王道中の王道じゃないか。
まあオリハルク様的にはどんな心境だったかは計り知れないが。
「次第にリーヴァ様はこのルブルム王国に住み着くようになって、気付けば冒険者から騎士団に、団員から団長にのし上がっていったわ。格上と手合わせする度に強くなっていって、次第にお師匠様では敵わなくなってしまったの。それが弟子を取るようになったきっかけで、アタシがお師匠様の弟子になれたきっかけでもあるのだから何とも言えないけどね」
リーヴァ様について一通り話し終えたダイアンさんは、まとわりつく哀愁を掻き消すように酒を呷った。
今日ちょっと用事があるので、早めに投稿しておきます。