創世
「ちなみにその神様の話、もう少し詳しく聞いていいですか?」
「は、はい……!創世神は3柱居るとされていて、創造と破壊を司ると言われるマキナ、力と権威を司ると言われるイデア、自由と制約を司ると言われるアイル……。この3人の神様がこの世界を作ったっていうお話です……。中でもアイルという神は元々異世界人だったなんて話もあります……」
「えっ、普通の人から神様になったってことですか!?」
「そ……そういう話があるだけで本当かどうかは……」
驚きで声が少し上ずってしまった。
それに反応してか、猫背の女性はビクっと肩を強張らせた。
なんかそんなに目を泳がせながら答えられると悪いことした気分になるな……。
だが噂程度とはいえ、創世に異世界人が関わってるかもしれないなんて話が出てくるとは。
もしかしたら本当にゲーマーがこの世界を作って、レベルやステータスウィンドウみたいなシステムを組み込んだのかもしれない。
彼女も一から十まで知ってるというわけではなさそうだし、単純に気になることが増えてしまった感じだ。
「その創世神の話が書いてある本ってどこにありますか?」
「す、すみません……、この話は口伝や詩でしか伝えられてないらしくて……。さっき言った創世神を信仰している国だったら詳しい話を聞けると思いますが……、この国からだとかなり遠くて、馬車でも数週間かかる計算です……」
宗教になってるなら聖書みたいなものくらいありそうな気もするけど……、語って継がなきゃいけない理由でもあるのだろうか?
なんて何の手掛かりも無しに考えても仕方が無いか。
別にそれを知ったところで僕がこれから何するかは変わら無さそうだし。
「なんか色々教えてくれてありがとうございます」
「いえ……、最近神話についてお話できる人が居なくて……、付き合わせてしまってすみません……」
「いえいえ大丈夫ですよ。あ、ついでになんですけど、タルタロスっていう著者の事は知ってますか?」
「タルタロスですか……、ギリシャ神話に出てくる、奈落に住まう混沌の化身と言われる存在ですね……。すみません、ペンネームとしてその名前を使ってる人は見たこと無いです……」
「さっき従業員さんに聞いたところ、昔はその本を置いてたけど400年前には王宮の方で保管されるようになったみたいなんです。やっぱりそんなに昔から図書館に置かなくなったら知ってる人ももう存在しないですよね」
もはや王宮の人に聞く以外に大した情報は得られないのかもしれない。
タルタロスさんみたいな特殊な条件の人でない限り400歳以上の人なんて存在しないだろうし、街中の人に聞いたって不毛だろう……。
「ところで、どうして貴方はそんな本の事をご存知だったんですか……?」
……確かに、そんな昔の、しかも現在は王宮で保管されてるなんていう本の事を知ってること自体聞いてることの方がおかしい。
どう答えたものか……。
まあ無難に、知り合いから聞いたって事にしておこう。
「えっと……知り合いにその本のことを聞いて、結構内容ヤバいらしいので気になっただけです……」
「そうなんですか……、すみません、私は何も知らないです……」
と、元々猫背で俯きがちな女性はさらに俯く。
「あ、いえ、神話の話が聞けただけでも十分です!また気になった事があったら聞きに来ていいですか……?」
「は、はい……!神話の事ならいつでも!最近こういった話ができる人が居なくて退屈してたんです……。ここに来る方はだいたい最近流行りのロマンス小説や、学術書を探しに来る学生さんばかりだったので……。神話も面白いのに……」
たしかに、よく見てみれば神話に関する棚を見に来る人が全然見当たらない。
少し奥まった場所だからかもしれないが、館内の人は意外と多かったわりにここまで本を探しに来る人は居なかった。
「あ……えっと、私はノイル・マーキスっていいます……。だいたいの日はこの図書館で勤務してるので……、来てくれればなんでもお話します……神話の事だけ……」
「ありがとうございます、僕は篠原励といいます。それではまた、失礼します」
僕とマーキスさんは互いにお辞儀をし、図書館の神話の棚を後にした。
炭水化物を食べるとすごく眠くなります。