決定
宿舎での生活は案外快適だった。
個室は広いし、常駐している使用人さんたちに頼めば可能な範囲で色々と用意してくれたりもする。
食事も豪華だし美味しい、別棟だが風呂もある。
服も支給されるし、なんかみんなで修学旅行にでも来てる気分だった。
不満があるとすれば部屋にコンセントが無い事だ。
スマホが使えないと禁断症状が出るほどの依存症ではないが、単純に退屈だ。
召喚された時スマホも一緒に持ち込めていたようだが、当然電波があるわけではないし、オフラインゲームならできなくもないが無駄に電池を消費したくない。
何かに使う時が来るかもしれないし、電源は消して制服と一緒にクローゼットに置いておくことにした。
3日間ほどみんなで意見を出し合い、最終的にはとりあえずこの国と協力関係を結ぶことに決定した。
戦闘組は7人。
指揮官として神楽坂。
主戦力として葛木君。
残りの参加希望者が、関君、伊藤君、蛭間さん、足立さん、そして僕。
待機組18人は国の中で色々と情報収集だったり魔王討伐以外の帰還方法を探る役割だ。
僕が戦闘組に参加希望したのは正直興味本位だが、伊藤君と足立さんもそんなとこだと思う。
とはいえ外でしか分からないこともあるだろうし、人数は多いに越したことは無いだろう。
1週間も経つ頃には僕たちもこの生活に結構慣れ始めていた。
2度目の国王との対面に対しても大体の人はリラックスした状態で臨めたと思う。
こちらからの代表者は前回と同じく神楽坂、望月さん、葛木君の3人だ。
「答えは出たかね?」
国王は単刀直入に聞いてきた。
その表情は依然と変わらず僕たちを見定めるかのようなものだったが、神楽坂は物怖じせず答える。
「はい、僕たちはこの国に協力することにしました、ただ一つ条件があります」
「述べてみよ」
「戦闘に参加する人員は僕たちが決めさせてもらいます、最低人数は3人以上、かつ必ず同じチームで行動させることにします」
「なるほど、よかろう、最低3人は我が王国軍と共に戦ってくれるという事だな」
「そういう事ですね」
神楽坂は何か含みのある言い方をしていたが、詳しいことは聞いてないから分からない。
「あと一つ確認なんですが、僕たちが協力することが決定した場合は、全員街に自由に出入りすることは許可されますよね?」
「ああ、講演の後になるが特に制限はしない、ただ法は守ってもらうぞ」
「それはもちろんです」
「ではそのあたりも含めて契約を交わそうではないか」
「契約……ですか」
国王は隣に座っている宰相に耳打ちをした。
宰相は席を立ち使用人と何か話した後席に戻った
「契約と言ってもやることは簡単なものだ、魔導契約と言ってな、契約する要項を書いてサインをするだけでよい、双方に契約を強制させるものであり国交などにも使われる魔術だ」
「強制……」
「こちらに帰還用の魔術を使えるのは1人しか居なくてな、そやつと契約してもらうことになる、内容は我々の軍に協力ならびに魔王からこの国と人類を救う事、魔王を討伐した暁には必ず帰還用魔術を行使し無事に元の世界へ帰すことだ」
しばらくすると召喚の際に居た老人と25枚の羊皮紙が来た。
僕たちはそれぞれサインをし終えると羊皮紙は魔法陣の上に置かれ、魔法陣が淡く光ると羊皮紙が端からチリチリと灰になって崩れた。
「これで契約完了であるな、ではステータスを開いてしっかり契約できたか確認しようではないか」
「ステータス……とは?」
「……そうか、貴殿らの世界にはステータスウィンドウが無いのだな、ラッツ、彼らに説明を」
ラッツと呼ばれたのは僕たちと契約したその老人だった。
老人は僕たちの前まで来て説明を始めた。
「ステータスウィンドウというのは簡易魔法の一つでしてな、誰でも使えるものでございます、皆様、手のひらを見て「ステータスウィンドウ」と唱えてくだされ」
僕たちは説明通りに真似してみると、手のひらの上になにやら文字や数値の羅列が浮かび上がった。
「1ページ目は本人の能力の値でございます、そのウィンドウの上で本のページをめくるように指をスライドさせてみてくだされ」
そう言われめくったページに羊皮紙のようなアイコンがあった。
「そのページのアイコンに触れると先程の契約の内容が出てくるはずです」
そのアイコンに触れると自分の名前と相手の名前と契約の内容が記されたウィンドウが出てきた。
「まるでゲームそのものだな、淡い期待を込めて聞くんだが、死んだ人を蘇生する魔法だか魔術はあるのか?」
そう発言したのは浦木君だ。
たしかに、もしこの世界が完全にゲームのような世界なのだとしたらリトライのためのシステムもあるかもしれない。
「結論から言うと蘇生魔術は開発されておりません、何千年にも渡り研究されてきた魔術ですが、記録上いまだ成功例は一度としてありませんな……」
「なら俺らの非戦闘員はその魔術の開発をする、記録上無いってことはその研究をしてきた記録はあるってことだよな?どこにある?」
「そ、それは王宮の図書館にございますが……」
それを許可する権限が無いのか、ラッツは国王に視線を送る。
「なあ王様、これは俺たちの為にも人類の為にもなる、魔術については俺はさっぱりだけど、そういうの得意そうなやつは何人か居るんだ、いいだろ?」
「……構わん、だが管理上司書に必要なものを見繕ってもらうようにしたまえ、万が一紛失などが発生した場合は重大な損失である、王宮内の書物はそれほど貴重なものだ」
「十分気をつけるから心配すんなって」
こうして浦木君はうまいこと王宮の書籍の閲覧許可を得た。
これは第二の帰還方法を探る大きな足掛かりとなる。
「魔術や魔法の指導者も用意しよう、王宮外だが研究施設もあるそこを使うといい」
「どーも」
そんなこんなで全員の契約が完了していることを確認するとこの場はお開きとなった。
案外サクッと終わったものだ。
その日の晩餐は大勢の貴族たちも呼ばれ豪勢に行われた。
例のごとく中園君が大はしゃぎだったのは言うまでもない。
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