団長
朝方のギルドは大量の見たことの無い冒険者で賑わっていた。
僕と同じくらいの歳の人から白い髭を生やした老人まで、男女問わず様々な人たちが掲示板の依頼を吟味していた。
今まで夕方にしかギルドに来ていなかったからこの時間帯のギルドの様子を見るのは初めてだ。
夕方はもう依頼を終えて一服したい人だけがバーのマスターのところに残っているかんじなんだろうなぁ。
「おはようございますリッテさん、カノン来てませんか?」
「おはようございますレイさん、カノンさんは今朝方魔物討伐の依頼を受けて南の森林の方に向かわれましたよ」
やっぱりもう出発した後だったか……。
リッテさんの様子から、カノンが受けたのは今回こそただの魔物討伐なのだろう。
ただの魔物討伐ならあまり心配はないが、ダイアンさんとの約束もあるし、あまり遅くならないうちに連れ戻してこないとな……。
「わかりました、じゃあ僕も今から向かいます」
「あっ、待ってください!昨日の調査の依頼の件なんですが」
「あぁ、やっぱり失敗でしたか?」
「いえ……失敗は失敗なのですが……、騎士団長の一人であるハインリーネ様の計らいで、本来の金額の半額を報酬として出してくださったみたいなんです」
ハインリーネ様……初めて聞く名前だが、失敗したのに報酬をくれるとはなんと太っ腹な人なんだ……。
正直そこまでお金に困ってるわけではないが、嬉しいものは嬉しいな。
「ハインリーネ様の言伝によると……小間使いご苦労であった、原因は排除済みとの報告だったが、それが真である証明ができない以上、こちらもそれを確認するのに時間を要する、ただ私の探知によると実際大量発生していた魔物の数は大幅に減っているようだ、その健闘を称え少額ではあるが私の懐から報酬を出させてもらう。……とのことです」
「ポケットマネーからですか!?そんなこともあるんですね……」
「ハインリーネ様は騎士団長の中でも凄くお優しい方なので、もし会う機会があったらお礼を言っておくといいですよ。こちらが預かった報酬です」
リッテさんは銀貨を2枚を僕に差し出した。
「カノンさんの分は差し引いたものなので、全部ご自由になさって大丈夫ですよ」
「わかりました、ありがとうございます!」
それにしても騎士団長のハインリーネ様か……。
昨日ダイアンさんが騎士団長様には勝てないなんて話もしていたなぁ。
強くて優しくて気前がいいって、そんな完璧な人が存在していいのかとさえ思えるな……。
そんな事を思いながら踵を返し、カノンを追うためギルドから出ようとしたとき、横から声をかけられた。
「よぉボウズ、ちらっと話聞いたんだが、お前がひよっこ冒険者のくせにカノンとパーティーを組んだって奴かぁ?」
そこに居たのは戦斧を背負った戦士風の男と、軽装で杖を持ちフードを目深にかぶった細身の男の二人だった。
戦士風の男は朝っぱらから酒を飲んでいるようだ。
「そ、そうですけど……」
なんか少し怖い人たちに絡まれてしまった……。
もしかして新人いびりとかされたりするんだろうか……。
僕はいつでも逃走できるように構えながら話を聞いた。
「どうだ、カノンとはうまくできてんのかぁ?」
「ま、まあそれなりには……」
「つって今現在置いてかれちまってるじゃねぇか!がっはっはっはっは!」
と大口を開けて笑われてしまう。
「実は俺たちもカノンとパーティーを組んだことがあったんだけどなぁ!あのバケモンみてぇな体力についてけなくて解散してんだ!ボウズもついてけなくなったら俺たちと組もうぜ!同じカノンと組んだ仲として歓迎するぜ!」
「親切かっ!」
「お?新人に親切にして何がわりぃんだ?」
「あいやすみません、思わずツッコんじゃって」
警戒して損した。
いやガラが悪い人に絡まれたら誰でも警戒するだろ……。
パッと見、冒険者だいたいガラ悪いけど……。
「俺は銀等級だけど隣のこいつはまだ銅等級だ、俺はガランでこいつがスレイン、仲良くしてやってくれや」
「ども……スレインです……」
「あっはい、よろしくお願いします……。でもカノンとはまだ解散する気はないので、すみませんがもう行きますね」
「わけぇのに根性あんなぁ。まあ気が変わったらいつでも言えよな!」
勧誘されるなんて思いもよらなかったが、人は外見によらないな……。
がっはっはと笑うガランに見送られ、僕はギルドを出たのだった。
なんか今日異様に眠かったです。