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報告

 別に痛くしたつもりはないが、タルタロスさんは叩かれた頭を押さえながら僕に抗議する。


 絶望に頭を抱えるカノンと合わせて篠原被害者の会みたいになってるのがなんか心外である。



「ってかカノンはいつまで頭抱えてるんだ。見ろ、橋渡って通れるようになったぞ」



 「ぬわあああ」と呻っていたカノンを引っ張り上げ、橋を確認させる。



「あ、ほんとだ!よし、行くぞレイ!バイバイタロー!!」



 と、僕の返事を待たずに抱え上げた手から抜け出し、颯爽と走り去ってしまった。


 相変わらずよく走る……。


 タルタロスさんはそんなカノンにひらひらと手を振って応える。



「それじゃあ僕も行きますね」

「ああ。調査の事、忘れずに頼むよ?」

「任せておいてください」

「では気長に待っていよう」



 タルタロスさんに別れを告げ、僕も橋を渡る。


 すると渡っている途中で、再び橋がゴゴゴゴゴと動き出す。



「は?沈んでる!?」



 もしやと思いパッと振り向くと、タルタロスさんがニコニコと手を振っている。


 渡ってる途中で橋を下ろし始めたようだ。



「理不尽な暴力への応酬さ。謹んで受け取りたまえ」

「結構がっつりやり返すタイプだな!?」



 やっぱりどこか子供っぽい。


 とはいえ魔法で何とかなるのも分かっているんだろう。


 結局川の半分から先は、来た時と同様にアクアコンダクターで水中を潜って渡る事になった。


 対岸に着いた頃にはタルタロスさんも姿を消していて、仕方がないので駆け足でカノンを追いかけることにした。






 帰りは何度か魔物と戦闘があったくらいで、それも大抵カノンが倒してくれるので、1日半かけて特に問題無くギルドに帰る事ができた。


 カノンを追いかけるのも結構慣れてきたもので、見失わないくらいには付いて行くことができるようにはなった。


 相変わらず体力の消費は半端ないが……。



「たっだいま~~っ!」



 と、カノンは元気いっぱいにギルドの扉を開く。


 やはり一斉に他の冒険者たちの視線がカノンに集まるが、「なんだ、あいつか」という感じで、すぐにそれぞれ食事や談話に帰っていく。


 彼らもカノンの騒がしさに慣れた人たちなのだろう。


 そんな中でリッテさんだけは「おかえりなさい」と答える。



「僕は調査の報告をしに行くから、カノンはミルクでも飲んで待ってて。それが終わったらどこかの店にご飯を食べに行こう」

「わかった!」



 カノンはバーカウンターのおっちゃんの方に、僕はギルド受付のリッテさんの方に向かった。



「おかえりなさい、レイさん。まさかちゃんとカノンさんと一緒に帰ってくるなんて」

「付いてくだけで精一杯ですけどね……」

「あの子とパーティーを組んだ中で一緒に帰って来た方ってほとんど居ないんですよ?皆さん諦めてカノンさんだけを先に帰らせてしまうので」

「あー、まあ気持ちは分かりますけど」



 カノンの制御役となろうとしてパーティーを組んだのだ。


 このくらいできなければ務まらない。



「それで、どうでした?依頼の件は」

「はい、一応解決はしたはずです。動物を魔物化させてしまうスライムが住み着いていたみたいで、それが魔物発生の原因のようでした。島に居たそいつらは全て殲滅してあるので、また発生しない限りは大丈夫だと思います」

「なるほどなるほど、動物を魔物化させるスライムとは聞いた事がありませんが……新種のスライムでしょうか……。ちなみにその証拠となるものは持ち帰れましたか?」

「あっ……」



 そうか、証拠物件が無いと証明できないではないか。


 新種の魔物が現れたとなれば尚更だ。



「すみません、何も持ち帰れては無いです。ただ元は絶ったはずなので、また大量発生とかすることは無いと思います」

「そうですか……、疑ってるわけではないんですが、証拠が無いとなんとも……。本当に解決したかどうかはまた調査する必要が出てきますので」

「それもそうですね……」

「とりあえず新種の魔物が発生していたと報告しますが、それで依頼達成となるかは怪しい所ですね……。まあもし失敗扱いだったとしても気を落とさないでくださいね、みなさんも一番最初の依頼はそんなものですので。合否は明日返答が来ると思うので、また明日伺ってもらっていいですか?」

「はい、わかりました」



 そう上手くはいかないものか……。


 依頼を受けたこと自体は無駄ではなかったと思うが、出鼻をくじかれた感は否めないな……。


 とりあえず今はどうしようもないので、カノンを呼びにバーカウンターへ向かった。


 カノンはまだカウンター席でジョッキのミルクを飲んでいる。


 カウンターまで着くと、筋骨隆々なおっちゃんが僕の前にコップを1つ差し出した。


 中にはミルクが注がれている。



「よう、新人の兄ちゃん。コレはこいつのお守り代だ。次も頑張れよ」



 カノンを指さして言う。


 どうやら初任務がうまくいかなかったのを察して気を利かせてくれたらしい。



「おっちゃん……!」

「あァ?」

「……マスター……」



 マスターは満足そうに食器洗いの作業に戻った。


 思ってたより優しい人だったけど、やっぱりちょっと怖かった。

ヤマニンゼファーかわいい……。

ゼファーってかっこいい名前なのにかわいいのずるい……。

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