仕掛
ベッドが硬めだったこともあり快眠とまではいかなかったが、久々ににちゃんと寝られた気がする。
カノンもなんだかんだ寝れたようで、僕たち2人はタルタロスさんに起こされるまでしっかりと体を休める事が出来た。
「ベッドを1つしか用意しなかったボクが言うのもなんだが、一緒のベッドで並んで寝る程仲良しとはね。昨夜はお楽しみだったかい?」
「他人のベッドで年端も行かない少女とやることやっちゃうような倫理観の欠如した人間に見えます……?」
「冗談さ。手を出せる程度胸があるようには見えない」
「もしかして喧嘩売られてる?」
タルタロスさんは冗談冗談と手をひらひらさせ、部屋の扉を開く。
「出立の準備ができたら隣の部屋に来たまえ。約束の物を用意してある」
と言われたが、荷物を持つくらいで特に準備するものもない。
カノンはまだ少し寝惚け眼だが、こいつは剣担ぐだけだし準備も何もないだろう。
僕はカノンの手を引き、タルタロスさんに付いて行く。
隣の部屋は物置のような場所で、僕が見ても良く分からないような物が雑多にある。
寝室同様テーブル代わりの木箱の上には小さな袋が置かれていた。
タルタロスさんはそれを僕に渡す。
これが約束の物という事らしい。
「タルタロスさんは夜通し準備してくれてたんですか?」
「そうさ、そもそもボクの活動時間帯は夜中だ。昨日は君たちが騒がしくて早くに目が覚めてしまったがね」
「その節はどうも……」
「まあ来客なんて滅多にある事ではないし新鮮で良かったさ。それに大抵の来客には出向くこともない」
来客というのはこの島への侵入者の事だろう。
何か目的が無ければスルーしてしまうような、地上には何もない島だし、基本的にはそのまま放置して帰ってもらってるんだろうか。
「よし、せっかくだ、島の外まで見送ってあげよう。また魔素体が出現しないとも限らないからね」
「あ、そうだ、魔素体の事ってギルドにどう説明しよう……。タルタロスさんの事は隠しておいた方がいいですか?」
世間体気にしてるみたいだし。
「そうだね、そうしてくれるとありがたいかな。原因はこの島に動物を魔物化させるスライムが発生していたとでも伝えてくれ。そのスライムも全て駆逐したと」
「いくら出します?」
「強かだねぇ。嫌いではない。小金貨をもう3枚その小袋に追加しよう」
「おお、言ってみるもんだな」
「その一言は普通本人の前では言わないものだがね」
タルタロスさんは床に置いてある大きめの瓶の蓋を開け、その中から金色のコインを3枚取り出し、渡された袋の中にチャリンと追加した。
もしかしてその中に財産突っ込んでるのか……?
セキュリティがガバすぎない?
「もういいか?早く出発するぞ?」
と、カノンが袖を引っ張る。
タルタロスさんとやり取りしてるうちにすっかり目が覚めたようだ。
「よっし、じゃあギルドに戻るか!臨時収入もあったし、味のある美味いもん食うぞ!」
「おおーっ!」
「イヤミかい?」
そうしてタルタロスさんの案内の下、施設の外へと連れられた。
そのまま森林を抜け、渡るのに苦労した川の前へ着く。
「じゃあ、僕たちは魔法で川を潜っていくのでこの辺で」
「あ゛~!そうだった!また渡らないといけないんだったぁ!!!」
カノンはうずくまり頭を抱えた。
「おや、魔法で川を潜るなんて面倒な事をしていたのかい?」
と、タルタロスさんは首を傾げる。
「えっ?でも橋とか無いしそれしか……」
「ボクはてっきり仕掛けを見破ってこの島に侵入してきたのかと思っていたのだが、まさか強行突破してきていたとはね」
「仕掛け……?」
「まあ見ていたまえ」
そう言ってタルタロスさんは川の前に立つ。
その場から5メートルくらいの間隔で右へ左へ、右へ左へ、右へ左へと3回往復して歩いた。
すると川の下から石製の橋がゴゴゴゴゴと浮き出てきたのだった。
「こんな風に、この場所を同じ人が3往復すると地中から橋が出現する仕組みになっているのだよ。どうしてもこの島に入りたい人への温情でね。これも魔術で作ったものだ」
「…………タルタロスさん、ちょっといいですか?」
「なんだね?」
僕はタルタロスさんに手の届く位置まで近づくと、スパンと軽くチョップをかました。
「っ!?な……なにをするんだね!?」
「いや、同じ場所を3往復したら橋が現れるなんてアホな仕掛けを作った人が居るなら一発殴ってやろうと決めてたので」
「なんだねその極めて限定的な決心は!?」
「極めて限定的な条件に合致したのが悪いです」
Vampire Surviversのせいで休日が溶ける……。