眠気
「まったく……、明日も早いしさっさと寝るぞ!あとタルタロスさんの服汚れるから元に戻しとけよ?」
「私はさっき少し寝たおかげでまだ全然元気だぞ?」
「さすがに仮眠でももう少し寝るだろ」
とはいえ見た感じ空元気でもなさそうだ。
あれだけで一日中走り回って消費した気力が復活するとかショートスリーパーにも程がある……。
ただ白衣は脱いでハンガーに掛け直してるあたり分別はちゃんとあるようだ。
「いつもあれだけ寝る時間に煩いのに今日はどうした?」
「なんかまだ夜って感じがしなくて眠くならないんだぞ……」
「もしかして日の位置が分からないと生活リズム狂うタイプか?」
たしかにいつもカノンが寝ようとするタイミングは日が落ちて暗くなった時だけど。
ちなみに僕は既に結構眠い。
朝から晩まで活動しっぱなしで体力が持たない……。
「とりあえず僕はもう寝るぞ。ベッドはカノンが使っていいから遅くならないうちに寝とけよ?」
色々落ち着いて気が緩んだせいか、大きな欠伸が漏れる。
僕は小さい木箱に座って、荷物を枕にしながら大きい木箱に身を預けた。
多少きつい体勢だが、教室の机で居眠りするのには慣れてるしまあ寝れるだろう。
と、目を瞑り寝ようとしたのだが。
「疲れてるならちゃんとベッドで寝た方がいいぞ!ほら!私が運んでやる!」
「ちょっ!?」
カノンは僕の胴に手を回し、軽々と肩に担いだ。
軽々と担がれた。
そのまま僕は成す術無くドサッとベッドに投げ込まれた。
背中が打ちつけられ「ぐえっ」と声が漏れる。
「……せめてもう少し優しく降ろしてくれよ……。一応他人のベッドなんだぞ……」
スプリングの入ったマットレスのベッドじゃなくて木の板の上にシーツが敷いてある簡素なベッドだから、僕にもベッドにもダメージ入るし。
「丈夫そうだし大丈夫だろ!」
「たとえベッドが丈夫だったとしても僕が大丈夫じゃない、ベッドが丈夫であるほど僕が大丈夫じゃない」
「そんなときは寝れば回復する!」
「そんなドラクエじゃないんだから……」
ってカノンに言っても分からないか……。
とはいえ無理矢理ベッドに投げ込まれた形だが、横になってしまうともはや起き上がる気力が湧かない。
流石にベッドを汚すわけにはいかないし、せめて靴だけは脱いでおいたが。
しかし女性のベッドで寝るのってどうなんだ……?
多分タルタロスさんとしてはそのつもりでこの部屋を提供したんだろうけど。
でも何故だろうか、この落ち着く感じは?
なんか懐かしいような……。
この無臭とも言えないが、清潔感の中にほんのりと香るアルコールと薬品のような匂いは……。
「……保健室のベッド匂いだこれ!?」
「なんだそれ?」
「あっいや、独り言だから気にしないで」
普段使いしてる寝室がそんな匂いになるものなのか……?
ただでさえ地下で空気が籠るはずなのに。
いや、匂いについてこれ以上言及するのはさすがにキモいからやめておこう……。
今日のところはこのまま微睡みに任せて寝てしまおう。
「まあいいや……、僕はもう寝るよ。おやすみ……」
「おやすみ~」
カノンは仰向けに寝ている僕の真横で返事した。
瞑った目を開くのも億劫だし確認はしなかったが、それでも分かる。
やっぱり今日も添い寝パターンになってしまった。
3日目ともなるとそろそろ慣れて来てしまっている自分が居るが、今回はそんなに寒いわけでもないのにどうしてそんなにくっ付いて寝たがるんだろうか。
とかなんとか考えているうちに眠気もピークを迎え、いつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。
最近昼間の眠気が凄い。