草食
なんか都合のいい感じで当面の軍資金が手に入ったが、まず必要なものは何があるだろうか……。
ギルドの依頼で外に出る事が多そうだし、とりあえず遠征用の道具を色々と買いそろえるか……。
「ちなみに期限はどのくらいですかね?」
「ボクとしては君が寿命を迎えるまでならいつでもいいのだけど、あまり長く取るのもよくないか。3ヶ月分の生活費を渡したことだから期限も3ヶ月にしよう。その時点でどれだけ調査できてなくとも報告をしてくれたまえ」
「調査できてなくともって……。わかりました、3か月後報告に来ます」
「あ、ボク本人が調査を依頼しているという事は一応隠しておいてくれたまえ」
「自分の知名度気にしてるって知られるの恥ずかしいですもんね」
「……まあそういうことにしておこう。前金は明日の朝に手紙の転送器と共に渡すよ」
タルタロスさんは野菜スープを飲み干し席を立った。
「さて、そろそろ日も落ちている頃だろう。寝床まで案内しようか」
どうやって時間を計っているのか分からないが、感覚的にはたしかにもうそのくらいな時間な気がする。
僕も既に食べ終わっているし、カノンはスープそっちのけで蔗糖をペロペロ舐めてて小瓶の中身がほとんど無くなってるのを見て、タイミングを合わせてくれたようだ。
ってか甘いもんばっか食いすぎだろ。
「ほらカノン、行くぞ」
「……わかった」
カノンは残ってた粉も全部口に入れ、小瓶を空にしやがった。
僕もちょっとくらい甘いものが欲しかった……。
ここ二日間あんまり糖分取れてなかったし……。
「タロー、甘いのはもうないのか?」
「それで全部さ。蔗糖はあまり使わないから面倒な抽出作業もあまりしていないものでね」
「すいません……うちのカノンが……」
「いいさ、カノンにはボクのせいで怖い思いをさせてしまったしね。彼女の為ならボクも甘くなろう」
「タローも甘いのか!?」
「そのままの意味じゃないぞ?」
偏見かもしれないがカノンならガブリと行きかねない。
「ちなみにボクはこの暮らしを始めて完全に草食になってしまったから、食べてみたら案外美味しいかもしれないよ」
「いや捕食を促さないでください……」
たしかに草食動物の肉は美味しいって聞くけど。
タルタロスさんって結構ボケるタイプなのか……?
「とりあえず付いて来たまえ。はぐれたら探し出すのに時間がかかる」
「わかった!」
「わかりました」
そうして再び迷路のような地下施設を歩き、8畳くらいのの個室に案内された。
ベッドが1つとクローゼットが1つ。
部屋の隅に置かれた大小1つずつの木箱はイスとテーブル代わりだろうか。
そして各部屋に同じく見られる謎照明が1つ室内を照らしている。
ミニマリストが喜びそうな部屋だ。
「今日はこの部屋を自由に使ってくれていい。ボクはやる事があるから別室で作業をしているが、朝になったら起こしに来る」
そう言ってタルタロスさんはこの部屋を後にした。
やる事というのは例の手紙転送器の事だろう。
魔物化してしまった経歴やこんなところに一人で住んでるせいで騙されそうになるが、普通に常識人って感じだったな。
タルタロスさんを見送る僕の後ろから声がかかる。
「見て見て!タローごっこができたまえ!!!」
振り返るとカノンが白衣を羽織ってぴょんぴょん跳ねていた。
「たまえの使い方が違う……ってか勝手に何やってんだ!?」
タルタロスさんの白衣だ。
いつの間に……と思ったが、開かれたクローゼットの中にもう何着か白衣がぶら下がっていた。
もしかしなくてもここってタルタロスさんが普段使ってる寝室では……!?
「他にも服あるぞ!」
カノンはそう言って下の方の引き出しを開けた。
そこにはシャツとズボンと下着が……。
「バカバカバカバカ!余計な事すんじゃねぇ!」
僕は急いで引き出しを閉めた。
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