大金
「何故だい?カノンもその聖剣についてよく知らないのだろう?」
「別に聖剣がどんな物だって関係ない、これは私の大事な物だ。私が使うことでこの剣が力を発揮できるならそれでいいだろ。それに1ヶ月は長いぞ!」
「ならせめて1週間だけでも」
「やだ!」
タルタロスさんはあからさまにムスッとした顔になる。
意外と子供みたいな一面もあるんだな……。
「ではレイ君はどうだ?君のユニークスキルについても調べたいことがいくつかあるのだが」
「僕ですか?えっと……悪いんですが、カノンがここに残りたくないって言うなら僕もカノンと一緒にここを出ます。それに今はギルドの依頼でここに来てるので、明日には報告のために戻らないといけないんですよ」
「つれないなぁ……、せっかく久方ぶりに面白そうなのが転がり込んできたというのに、何も分からずじまいでは研究者としての名折れではないか」
「面白そうって……」
でも檻に閉じ込められた時みたいに無理矢理って感じじゃないし、ちゃんと個人の権利を尊重してくれてはいるのか……。
むしろどうしてグランブルク王国の使いだと疑われた時に、あそこまで敵意が高かったのかが謎だ。
魔物化してしまった時に何かいざこざがあったんだろうか。
十中八九あったんだろうな。
正直500年前の出来事ならもう時効だろ。
……なんていうのは異世界じゃきかないのだろうか?
「まあでもユニークスキルについては僕も色々試しながら使ってるので、何か新しい発見があったら手紙か何かで報告しましょうか?」
「それならばいいものがある。いや、あるというより後で作る。明日までに完成させるから待っていたまえ」
「作るって何を……?」
「ふむ、勿体ぶっても仕方がないか。手紙をやり取りするための転送魔術をプレートにしたものだ。手紙を送ろうにもこんなところにメッセンジャーも行商人も来ないからね。伝書鳩ならあるいはと言ったところか」
「この世界にも伝書鳩とかあるんですね」
「ああ、実際に見た事あるわけではないがね」
伝書鳩って響きに少しあこがれもあるが、転送魔術っていう便利なものがあるならそんな手間のかかりそうなもの使う必要は無いか。
「そうだ、ついでで良いのだが、レイ君に一つ頼みたいことがある。きちんと報酬も用意するから聞いてはくれんかね?」
「どういう内容かによりますけど……」
「君たちの登録している冒険者ギルドのあるルブルム王国で、タルタロスという名がどのように広まっているか調べて欲しい」
「自分の名前の知名度が知りたいって、割と承認欲求高め……?」
っていうかあの国ってルブルム王国って名前だったのか。
そう言えば何も知らずに冒険者登録とかしてたな……。
「歯に衣を着せたまえ。そんな理由ではない。昔あの国の図書館に研究内容を記したボクの著書を売りに行ったことがあるのだが、今思えば我ながら随分と攻めた内容でな。マッドな研究者として名を馳せていないか心配なのだよ」
「なるほど、ちなみに報酬って?」
「君の働き次第だが、とりあえず前金として小金貨3枚でどうだね?」
「小金貨の価値が分からないです」
金貨っていうくらいだから高額なのは分かるけど……。
「正直ボクも現代での貨幣価値の相場は分からないが、ボクがグランブルク王国に居た頃は倹約すれば1枚で1ヶ月は働かずに暮らせると言われていたね」
「えっ、普通に大金じゃん……。本当にいいんです?」
「ここで自給自足できるボクには無用の長物だからね。それで、ボクの頼みは受けてくれるかい?」
「やりますやります!」
単純に大金に目が眩んで安請け合いした感じになってしまったが、カノンと依頼をこなす合間合間に何とか調査を進めることにしよう。
大金で安請け合いって矛盾してる感じがしてなんか少しムズムズしますね。