自壊
ステータスリセットは正直戦闘面において何の役にも立たないだろう。
純粋にレベルを上げてゴリ押すしかないのか……?
「さて、レイ君の事はある程度分かった。次はカノン君の事について教えてもらおうか。ほら、もう起きているのだろう?カノン君」
タルタロスさんはそう言って席を立つと、僕の上に乗っているカノンの背筋を指先でなぞる。
「ひゃうっ!!?」
ビクリと飛び起き、ひっくり返るように僕の上から落ちそうになるが、足で僕の事をカニ挟みにしていたせいで僕も巻き込まれてイスから転げ落ちる。
「あああああっ、今背中すごいゾワってした!?」
「いててて……って、起きてたならいつまでも乗っかってないで下りてくれよ……」
「え~、だってあぁしてるとなんか落ち着くんだもん」
「落ち着くんだもんって……」
カノンに落ち着くなんて概念があったのか。
「まあまあ、カノン君もまだ甘えたい盛りな歳だろう、13か14といったところかな?」
「13歳だけど、依頼の話はもう解決したんだろ?それなら早く帰って報告しないと」
「そう言わずにもう少しゆっくりして行きたまえよ。レイ君もこんな所まで歩いて来て疲れただろう、一晩泊っていったらどうかね?安全な寝床くらいは用意できるよ」
と、宿泊の提案をされた。
たしかに今からギルドに帰ろうにも、時間的にすぐに日が暮れてしまうだろう。
それならば一晩待って朝方から出発してもそう変わらないはずだ。
あと単純に安全な場所でゆっくり寝たい。
「せっかくだから泊めさせてもらおうよ、どうせそろそろ日が暮れるし」
「え~、でもあんなスライムが居るところで寝たくない……」
「スライム、もとい魔素体が心配なら、今から全て始末しよう。付いて来たまえ」
そう言ってタルタロスさんは有無を言わさず部屋から出ていってしまった。
僕とカノンはどうしようかと顔を見合わせるが、仕方がないので言われた通りに付いて行く。
部屋と部屋が迷路のように繋がっていて、ちゃんと付いて行かないと遭難しそうな構造だった。
途中に野菜やキノコを栽培している部屋なんかもあった。
そうして連れてこられた部屋の中には、大きめの水槽のようなものがいくつも並んでいて、密閉されたその中では僕たちが地上で襲われた紫色の液体と正八面体のコアが蠢いていた。
「ひぇ……」
カノンが腕にしがみ付いてくる。
トラウマにトラウマを重ねるような出来事があったわけだし怯えるのも仕方がない。
「これら全部魔素体ですか……、でも地上に居たやつと比べると小さいですね」
地上に居たやつは人1人は余裕で飲み込めるくらいの大きさだったのに、ここに保管されている魔素体はその4分の1もない。
「逃げ出していた魔素体はおそらく川から水分を得て肥大化したのだろうな。これらの原材料は魔術を施したコアと水分と瘴気だけだ。瘴気が余っていれば水を吸い込んだ分だけ大きくなれる」
「それって、逃げ出したやつ放置してたらどんどん巨大化しません……?」
「するだろうね。ただこのコアに刻まれた命令は、獲物を見つけて魔物化させるというものだ。適当な生物を見つけたら捕獲して瘴気を植え込み魔物化させ、役目を終えた水分とコアは力を失い地に還っていく」
「コアが体内に入って体の主導権を乗っ取られる、みたいな感じじゃないんですね」
「そこまで複雑な命令を刻むとなると、もっといい素材や難解な術式を組み込む必要があるのでね。量産には向かない。それに元々この魔素体はボクの中の瘴気の捌け口として作ったものだ。そんなテロでも起こせそうな機能なんて付ける気無いさ」
あぁ、そういえば瘴気を吐き出さないと魔物化が進んでしまうのか。
なんか大変そうだなぁ……。
「ちなみに非常用に自壊する術式も組み込んである」
タルタロスさんは左眼を魔素体に向け一言、崩壊せよと放った瞬間コアが粉々に砕け、さっきまで蠢いていた液体は嘘のように全く動かなくなった。
「と、こんな感じだ。残ったのは水と木屑だが、瘴気に汚染されたままだからくれぐれも飲んだりしないでくれたまえ?」
「さすがにそんなことしませんよ……」
そう言ってタルタロスさんは次々に魔素体を自壊させていった。
Vampire Survivorsをやっていたらこんな時間になってしまいました。
あぁ……無限に時間が溶けていく……。