崩壊
「我もその小娘の登場は予測していなかった。とはいえ自らの意思で割り込んだのだ、覚悟の上であろう?小娘とて魔人である事に変わりはない。情けを掛けるつもりは無いぞ。だが、その剣の事くらいは教えてやろう。端的に言えば魔を殺す剣だ。実体ではなく瘴気を捉える」
やはりただのグラディウスではなかったか。
私の技の珠衝と似たような効果を持つ剣……という事だろうか。
しかし、珠衝は言わば魔族の力の根源である瘴気の核のようなものを攻撃する必殺の技だが、即死していないという事はそれとは少し違うのか?
「麻袋を切るようなものだな。穴の空いた袋から中身が零れるように、体内の瘴気が徐々に零れ出ている。しばらくしないうちに身体の崩壊も始まるだろうな」
もしや掠めてさえいればいいという事か?
皇帝の言っている麻袋云々というのはおそらく分かりやすくするための比喩なのだと思うが、なるほどそんな事もできるのか。
廉貞で模倣できないか試してみるのもいいかもしれないな。
たまには遠出してみるものだ。
……とはいえ職務としてしかそんな機会は無いだろうが。
「テオ様……ごめんなさい……私……」
「よい、大人しくしていろ。後で必ず助けてやる」
魔人はそう言って再び皇帝と向き合った。
刀は一度納刀し、いつでも抜けるような構えのままじりじりと距離を詰めていく。
皇帝はそれに対して、ただ待ち構える。
足元に魔法陣を描き臨戦態勢だ。
魔人の能力は結局あの説明では私にはいまいち理解が及ばなかったが、要は単純に考えれば手数が倍になるのと大体同じという事なのだろう。
腕が一本減って文字通り手の数が半分になってしまった皇帝ははたして戦えるのだろうか。
先に動いたのは皇帝だった。
「万神、陽炎」
皇帝の姿が揺らぎ、徐々にぼやけていく。
気が付けば、皇帝が2人に増えていた。
……そんな事もできるのか。
「分身……か」
「残念ながら先の魔族のような上等なものではないがな」
短い言葉を交わしている間に4人8人と増えていく。
手の数を分身で補う……なんて安直な考えではないと思うが……。
魔人はそのまま正面の皇帝に対して斬りかかる。
刀は容易に皇帝の姿を切り裂くが、斬られた皇帝の姿は霧のように霧散していく。
「実体はない、という事は、本体以外そちらから攻撃してくる事も出来ないという事か。そんな木偶を出して何になる」
「さてな」
「のらりくらりと……貴様、戦う気が有るのか無いのかはっきりしろ!」
魔人は皇帝の分身を次々と斬り伏せるも、それと同等の速度で新しい分身が現れる。
こういった事をされると範囲攻撃手段が無ければ突破は難しいだろう。
気付けば既に少女の体が崩壊し始めていた。
おそらく液化の能力を使おうとしているのだろうが、上手い事能力を操る事ができていないように見える。
手足の先端からボロボロと崩れ落ち、間も無くして少女は完全に消滅した。
人間と敵対する魔人に同情する気は無い。
むしろあの能力は生かしておけば十分脅威になる。
私が介錯してやってもよかったくらいだ。
「……そろそろよかろう。決着を付けよう、伯父上よ。万神、鵺」
ペヤングの麻婆やきそばが美味すぎて見かける度に買ってます。




