齟齬
僕はユニークスキルの事も含めて、召喚されてから今までの事を包み隠さず伝えた。
所々投げかけられる質問にもできるだけ答えた。
「───って感じで、とりあえず依頼を受けて魔物大量発生の原因調査のためにここまで来ました」
「ふむ、事のあらましは分かったが、一つ確認したいことがある。王国で交わされた契約はどういったものか、実際にステータスウィンドウから見せてくれないか?」
「いいですけど……」
僕はステータスウィンドウを開く。
……が。
「あれっ!?無い?」
「やはりか……」
1ページ目には各種ステータスが、2ページ目には契約した魔法が、3ページ目にはユニークスキルが記されており、王国で見た契約のアイコンがあるページが綺麗さっぱり無くなっていた。
「消えてる……、いや、これは……」
「リセットされている、のだろうね。というか今まで気が付かなかったのかね?」
「いやぁ、ステータスと魔法のページしか見てなくて……」
契約なりなんなりの事は完全に頭から抜けていた。
言われるまでステータスウィンドウで確認できる事すら忘れてた。
「契約内容を確認できない以上、レイ君の記憶が頼りだが……。君の記憶が正しければ、王国軍に協力ならびに魔王から国と人類を救う事。だったね?」
「たしかそんな感じだったはずです、魔王を倒したら帰還魔術で元の世界に返してくれるっていうのも含めて……って、契約白紙になってたら魔王倒しても僕を帰還させてもらえる保証が無くなったって事!?」
「まあ、君にとっての問題点はそこかもしれないが……。その契約内容の記し方では、軍に協力する事と魔王から国を救う事が独立している事になる」
「よく考えればそうかもしれませんが、結局協力する事には変わらないんじゃ?」
「分からんかね、軍に協力するという部分が独立しているおかげで、魔王に関連せずとも軍は君のお仲間さんたちを自由に動かすことができる。そして魔王の侵攻に備えるために、軍の指示が無い限り国から遠く離れたところへ行くこともできない。この契約が有効な以上はあの国の傀儡といううわけだ」
「そ……そんな……。騙されてたってことですか……」
「騙すも何も契約の内容通りだがね」
そう言われればそうかもしれないが、悪意があるのは明白ではないか……!
まさか魔王を倒すのは二の次で、ユニークスキルを持った僕たちを何かに利用しようとしているのか……?
「急な展開になれば事実と認識の齟齬に気付くのは難しいものさ。ただそれでも、苦し紛れの対抗策を実行できた人物が一人居たではないか」
「……神楽坂」
「君が契約という呪縛から抜け出せていることにいち早く気付いて、国から無理やりにでも遠ざけた。なかなかやるではないか」
それならそうと言ってくれれば良かったのに……。
いや、言えない理由があったと考えるのが妥当か。
盗聴されてたとか監視されてたとか……。
「そ、それなら早く助けに行かなきゃ!」
「落ち着きたまえよレイ君、のこのことあの国に戻ったところで今の君では勝ち目なんて無かろうに。最悪その友人と剣を交える事になってしまうだろうよ」
「じゃあどうしたら……」
「知ったような口になってしまうが、彼は君に託したのではないかね?魔王が倒されれば契約に則り元の世界に帰さねばならなくなる。その魔王を倒すという大役を」
「僕が……魔王を……」
そうだ、魔王を倒すという契約ではなく魔王から国を救う、つまり魔王が攻めてきたら護るという契約である以上、神楽坂たちが自ら魔王を倒しに行くという事ができないのだろう。
皆を助けるには僕がやらなくちゃいけないのか……?
「まあ、正直君の能力では難しいと思うがね」
「で、ですよねぇ……」
なんか今日すごくやる気が出ない日でした。