蕗下
「……まさか地中に身を隠すとはな。大技の後は隙ができると思ったのだが」
「甘く見られたものだ。しかし確実に踏み潰したはずだが、はて我の見間違いであったか?」
私にもそう見えた。
アレに押しつぶされればひとたまりもない事は皇帝自身も回避行動を取っていた事からも明白。
そもそも私自身もそれを事実として体験している。
だが魔人は居合の型のまま動かなかった。
考えられるのは魔人の能力が防御系の能力である事だ。
皇帝側が今まであまり勝負を決める攻めっ気が無かったが故に、魔人側も今まで能力を使うまでもなかったという事だろうか。
もしそうなのであれば私の廉貞の能力は相性が良い。
いかなる防御であれ刑剋の矛が貫けないものは無いからだ。
だが先程魔人が口走った「未来」という言葉……、能力が関係していると考える方が自然だろう。
能力の推理を阻害するためのブラフだとしても脈絡が無さすぎる。
……そういえばナッシュが破軍の巫女の能力を応用して壁をすり抜ける芸を披露していたことがあったな。
確率がどうのと言っていた気がするが、職務中だったせいで適当に聞き流していて詳しくは覚えていない。
まあ要するに防御ではなく、すり抜けという回避の能力である可能性も存在するという事だ。
そうなった場合は私の能力が通用するかは怪しくなってくるな……。
「確かめたいのならもう一度あの足を出してみればどうだ」
「……やめておこう。無駄だと知れただけで十分だ」
「どうせ連発できる技ではないのであろう?」
「同じことを繰り返すのは愚者の所業だ。なにも確かめる方法はひとつではない。万神、蕗下衆」
巨大な足で踏み潰され、隠れる場所もないほど整地されてしまった空間に、今度は足の踏み場もないほど大量の植物が現れる。
「生えてきた」というより「現れた」だ。
そして、傘のようになっている葉の下に何か素早く動くものが見えた……。
「今度は数で攻めてみるとしよう」
「くっ、何だ!?」
小人……だろうか?
10cmにも満たないくらいのずんぐりむっくりな小人が小さい刃物を持って何十も何百も駆け回っている。
周囲に大量に居るものだから身動きが取れないのだが……。
踏んでも大丈夫なものなのか……?
一応敵味方の判別はしているようで私には襲って来ないようだ。
試しに一匹捕まえてみると、ジタバタと暴れた後、泡が弾けるように霧散して消えた。
……すこし、可愛いかもしれない。
「小賢しい事をする……!」
魔人はこれにやや苦戦しているようだ。
周囲の植物は薙いで視界を確保し、飛び掛かる小人を次々と斬り伏せているが、それでも小人の人海戦術に四方八方から圧され、致命打にはなり得ないものの細かい傷をいくつも負っている。
小人の数が無尽であるのならこのまま押し切れるのではないかと思うがはたして……。
ようやく涼しくなってきましたね。
季節の変わり目という事で相も変わらず体調を崩しております……。




