形成
今回からしばらくアリオーシュ視点に切り替わります。
今回の任務はあの馬鹿……ミザリーの回収、及びミザリーと行動を共にしているレイという名の黒髪の少年をステラ神治国に連れ帰る、もとい招待する事だ。
男性嫌いの司教様がそう仰るのだから何か重要な話でもあるのだろう。
司教様のお考えはいつもの事ながら読み切れないが、その全てが国の為である事を我々は知っている。
私はただ任務を遂行するだけだ。
ミザリーは他人と打ち解ける事だけは上手く、既にレイとは良好な関係を築いていたらしい。
そのおかげか他人に怖がられがちな私でも早々に打ち解ける事ができたと言っていいだろう。
ステラへの招待も悪い返事ではなかった。
残る問題はリベルグ帝国のこの状況だ。
魔族に妃を誘拐され、皇帝と魔族との争いが発生し、そこににミザリー共々首を突っ込む形で参戦してしまっている。
本来ステラ側としては対岸の火事のままあまり関わりたくないところではあるが、ミザリーの奴が既に関わってしまっている以上私も傍観してはいられない。
ついでに魔族を駆除できると考えてこの蛇足も許容するとしよう。
そう自分の中で落としどころを見つけ、現在は敵軍の大将と思わしき魔人と皇帝の一騎打ちの行く末を見守っている。
もし皇帝が敗北した場合にあの魔人を私が仕留めるためだ。
それまではレイの事はミザリーに任せるとしよう。
レイもあの負傷で無茶をするほど阿呆ではないだろう。
現状は皇帝が優勢に見えるが、魔人の方がまだ能力を見せていない事が気掛かりではある。
何か条件があるのか、代償の重い奥の手であるか、あるいは使えない能力であるか。
一番良いのはこのまま皇帝が押し切って魔人を片付ける事だが……。
「さて伯父上、魔人として我の前に現れたのだ。処されようと文句はあるまいな」
「勝てるつもりでいるのか小童が」
「刀の腕もその程度で我が負ける道理がどこにある」
「貴様こそ秘術に胡坐をかいているのではないか?それほどの魔術、何も消費せず使えるものではあるまい」
「我が術を使えなくなるまで粘るつもりか?」
魔術に関してはメルカやフェシィ、最近巫女となったメグの方が詳しいだろうが、私も一応最低限は学習をしている。
リベルグの皇帝に伝わる秘術はステラではもはや何のこともないただの空の元素による魔術であり、使用には高度な知識が必要な代わりに供物の変換効率が五元素の中で最も高い。
今のところ私もそれを扱える人物を司教様とメルカしか知らない。
皇帝が何を供物にしているかは知らないが、それでも持久力切れを狙うのはなかなかに難しい事をあの魔人は知らないのだろう。
「伯父上には悪いが生憎女を待たせていてな、遊んでいる暇はないのだ。腐っても親族、最期に花を持たせようと全力で来る事をを待っていたのだが、節介だったようだな。そろそろ終わりにするとしよう。万神、大多羅法師」
薄闇に魔法陣の光が輝く。
幾度と見た皇帝の魔術。
今までは即座にその場に怪物が現れるか皇帝の風貌が変わるかしていたのだが、今回は様子が違う。
どうやら即座に何かが起きるものではないようだ。
数秒の時間が経った後に、月が陰った事でようやくそれに気が付く。
上空で何かがどんどんと形成されていっている……。
距離感が分からず正確な大きさが分からないが、それでも巨大な骸骨を遥かに凌ぐものが作られている事は明らかだ。
……もしやそれを落とそうというのか?
圧倒的な質量と圧倒的な範囲で相手を押し潰そうというのか?
皇帝自身も当然範囲に含まれているし、それに対して何か対策もあるのだろう。
だがこのままでは私まで巻き込まれてしまうだろうが。
……ここは一旦退避する他ないな。
使っているPCをWindows11にアップデートしました。
そこはかとなく便利になったような雰囲気は分かるのですが、慣れるまでは微妙な違和感と戦わなければなりませんね……。
 




