魔眼
それにしてもこの世界全体に瘴気が漂ってるなんて相当危ない世界なんだな……。
さっさと元の世界に帰りたい……。
「現地人では魔王や魔族に対抗する術がない理由がそんなところだ。人間も魔物化することがあると知ったところで本題に戻ろう。魔物化が始まると肉体の成長は止まり、代わりに瘴気による肉体の変異が始まり、次第に脳まで侵され狂暴化してしまう。つまり変異中は老化しないという事になる」
「不老……それってもしかして……」
「そう、ボクは既に魔物化しているのさ。そのせいで500年なんていう長い時間生かされてしまっているのだよ。これが証拠さ、魔眼とでもいうのかな」
そう言って左眼に付けていた眼帯を外した。
紫色の水晶が埋め込まれているかのような、およそ人間のものとは思えない眼球がそこにあった。
義眼のようにも見えるが、タルタロスさんの意思で動かせているようで、その気だるげな瞳は紛い無く彼女のもののようだ。
「魔物化してるって大丈夫なんですか!?瘴気に脳までやられるんじゃ……」
「本来ならそうなんだがね、どういうわけかボクは魔物化と同時に瘴気を分け与える力を手にしてしまった。この力でボクの中の瘴気を薄める事により魔物化の進行を阻止できたのさ」
「侵食される瘴気が無ければ魔物化が進行することも無いってことですか」
「最初は苦労したものだよ、この眼から延々と発生する瘴気をどこかに発散しなければならなかったからね。歩く瘴気散布装置になってたわけさ。それがこんな場所で一人で暮らしてる理由の一つでもある」
遠い過去を思い出すように、彼女の瞳も遠くを見つめている。
少しの間があり、タルタロスさんの視線は再び僕へ向いた。
「そんな眼なら引っこ抜いてしまえばいいと思ったかい?」
「いえ……そんな……」
「ボクも最初はそう思ったんだがね、どうやら瘴気を分け与える謎の力はこの魔眼のおかげでもあるらしいのだよ。おまけに瘴気の濃淡まで見分けられるようにもなっている、こんな便利なものを研究者として手放すわけにはいかないではないか」
そう言って不敵な笑みを浮かべる。
「そしてあの魔素体へと話が繋がるわけだ。アレはボクの左眼で作り出した、魔物の素とでも言うべきものでね、対象を取り込んでコアを埋め込むことで魔物化させてしまう。分類としてはアレも魔物であるのだろうけれど、ボクは人為的に魔物を作るための装置として開発したものだから魔素体と呼んでいる」
「それがいつの間にか逃げ出してて、地上で魔物が大量発生する原因になってたと……」
「おそらくその通りだ。少なくともボクはそれしか原因が思い当たらない」
「ていうかなんでそんなヤバいもの開発しちゃったんですか……?」
「研究のためさ、ボクが人間に戻るための。ネズミを魔物化させて元に戻す、ボクは500年の間その研究を主に進めている。今のところ成果は無いがね」
タルタロスさんはやれやれといった感じで首を振る。
「これからは余分に魔素体を作りすぎないように心がけるよ。これで君たちの仕事の件は解決かな?」
「まあ……多分」
「ではボクの事については教えたわけだし、次は君たちの事について教えてもらってもいいかな?」
「……わかりました」
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