見張
「レイ君、睡眠を取っていいと言った直後で悪いが、多少でもカノン君たちに近付きたい。動けるかね」
「はい…………いや、すみません、寝返り打つのも難しいかもです……」
一度気が抜けてしまったせいか、どうしても全身に力が入らない。
重力が何倍にもなっているかのように地面から体が離れない。
「ボクの腕力では引き摺って運ぶ事もできないな……」
「何か……使えそうな魔術とか無いですかね……。濁流で押し流すとか……?」
「死にたいのかね。君のその胸の傷は致命傷と言って差し支えないだろうに。もし切り傷が肺まで到達していたら君はもうここには居ないのだぞ。……まあ動けないのなら仕方がない。ここでカノン君たちが戻って来るのを待つしかないな」
通路の奥の方からスピネの声……いや、声帯までタルタロスさんと同じだからタルタロスさんの声なのだが細かい事は置いておいて、スピネの声が響いて来る。
……しまった、僕が戻って来るように言っていたと言うように言っておけばよかった。
スピネの言葉だとカノンはごねる可能性が高い。
僕はもう大声も出せないし、カノンがちゃんと聞き分けてくれるのを願うしかない。
「そうだ、悪あがきかもですけど、さっきの大岩を出す魔術で来た道を塞いでおいてください。多少は時間が稼げると思うので」
「ああ。承知した」
こんな話をしている間にも断続的な振動と轟音は響き続けている。
どんな移動の仕方すればそんな音が鳴るのか……。
僕たちはメメントをそれほどまでに怒らせてしまったのだろうか。
タルタロスさんもメメントが近付いて来ているせいか、少しずつ表情に焦りの色が見え始めてきている。
とはいえそれでも魔術の腕は鈍ることなく発揮していた。
さっきのプレート型とは違い、荷物から紙とペンを取り出し、即席で術式を構築し、通路を塞ぐ壁を創り出した。
僕もまだ魔術は齧った程度だが、これが十分に凄いことであることくらいは知っている。
場面場面で適した術式を構築するのは相当な知識と技術を要する。
僕の左手の術式も色々な魔術が使えるように作ってあるものの、基本的に各元素の放出とそれぞれの掛け合わせ、後は強弱を選べるようにしてバリエーションを出してるだけで、案外大層な事はできない。
それに全部事前に術式を作って用意してあるものだし。
「ヴアルをここから出せ!!!」
突然通路の奥の方からカノンの声が響いて聞こえた。
スピネやヴアルさんに対しての言葉とは考えにくい言い方だ。
……つまり、もう一人誰かが居る。
それがメメントの可能性も無くはないが、一番に考えられるのは……。
「牢の見張り番か……。完全に頭から抜けてた…………」
3ヶ月くらい夏休みが欲しいぃぃぃ!




