階層
「…………そうだ、タルタロスさん、僕たちが皇帝と初めて会った時に皇帝が使った、地面に大穴を空けた魔術を覚えてますか?」
「ああ。……もしやアレを再現しろという事かね」
「できますか?」
「できない……とは言わないが、術式の再現には多少時間がかかる」
「穴って事はもしかして……」
スピネの言葉に、僕はゆっくりと立ち上がりながら頷く。
脱出するために穴を掘って地上に出ようというのはミザリーさんと居た時に出た話だから、スピネも簡単に予想が付いたのだろう。
「ヴアルさんを救出してから裏世界を使って地上まで穴を掘って脱出します」
「レイ!ヴアルのこと助けに行ってくれるのか!」
「僕の記憶では地上からここに来るまでに4回階段を下りました。ヴアルさんがここと同じ階層に居ると仮定して、多く見積もって1階層10m程度だとして、ここから地上までは40m。スピネの能力が直線で100m近く伸びるので、えーっと……だいたい30度弱の傾斜で地上まで掘り抜けば直線で外に出れますね」
「計算が早いな。人質がどこに居るかはボクの眼で確認済みだ。安心したまえ、この階の先に居るはずだ。まあとにかくボクは100m程度の洞窟を掘れる魔術を今から作ればいいのだろう」
「はい。一気に100mじゃなく10mを10回とかでも大丈夫です。この脱出法なら相手も流石にそこまでは予測するのは難しいはず……」
仮に予測できたとしても地上のどの場所へ出るかが分からない以上待ち伏せも難しい。
となればまずはさっさとヴアルさんを連れて裏世界に籠ることにしよう。
「一応他に案があるなら聞きます。今僕が思い付く相手の裏を突く作戦はこれくらいなので」
「私はまあいい案だとは思う。むしろよくそこまで考えたもんだ」
「おう、レイは頭がいいんだぞ!」
「いや、そんなでもないよ……」
「……全く、君がそこまで助けに行きたいと言うのなら、ボクももうこれ以上異論はない」
「ありがとうございます。それじゃあとにかく急ぎましょう。ここからは時間との勝負なので……」
メメントがヴアルさんのところに戻るより先に僕たちがそこへ行かなければならない。
そう逸る気持ちで一歩を踏み出したのだが、やはり体はもう限界を迎えているのか、ガクンと膝を付いてしまったようだ。
「うっ……」
「レイっ!!」
「おい大丈夫か!」
「だ……大丈夫……」
カノンが慌てた様子で寄って来る。
それに続いてスピネが僕の体を支えようとする。
「おっ……重っ……。いやこれこの体が貧弱なだけか……?悪いけど手貸すの難しいなこれ」
「貧弱ですまないね。体を使うのはボクの分野ではないんだ。行くと決まったのならボクは先に行って大岩を処理してこよう」
タルタロスさんはそう言って部屋の方へ向かって行った。
「レイ!私がおんぶしていくぞ!」
「いや、カノンも怪我してるんだから無理するな。……って言いたいところだけど、ちょっと肩だけは貸して欲しいかも……」
こうして僕たちはヴアルさんを救出するべく、地下のさらに奥深くへと進んで行くのだった。
牛タンが食べたい……。
肉厚の牛タンが……。




