年齢
「レイ君は冒険者ギルドの依頼でわざわざここまで来たと言っていたけれど、どうして勇者としてではなく冒険者として活動しているのかな?国の支援があればわざわざお金を稼ぐ必要も無かろうに」
「いや、僕は王国軍から追放されたんですよ……仲間に転移魔法を使われて。面倒見切れないって。25人で召喚されたんで、国の人も1人減ったくらいじゃ変わらないくらいに思ってたんじゃないですかね。それで飛ばされた先でカノンと出会って、一緒に冒険者をすることにしたんです。つい3日前の事ですけど」
「25人とは……欲張ったものだねぇ。召喚魔術の結果から4%減ることが誤差であるかはさておき、追放されたという事は、君はもうグランブルク王国側の管轄ではない、グランブルク王国の命令で動いてないという事だね」
「まあそうなりますね」
正直ただただふらっとグランブルク王国に帰っても、またどこか遠くに飛ばされるオチだろうし、当分近寄る気もない。
グランブルク王国がどの辺にあるのかはいまいち分かってないが。
「ふむ、君のユニークスキルの件と違って偽りは無さそうだね……。それが分かれば結構。君はボクの敵ではない」
「あ、やっぱ誤魔化してたのバレてました……?」
「言葉通りの能力であればあの国は意地でも君を手放さないだろうよ。そもそも君は嘘が下手だ」
ド直球に言われた。
確かに嘘つくのは得意じゃないけど。
そもそもこういう舌戦は神楽坂の十八番だし僕の役割でなかったので仕方ない。
タルタロスさんはイスに深く座り直し、肩の力を抜く。
「あの国の者ではないと分かった以上、君たちの事は解放せねばなるまいね」
右目を伏せ一言、「崩壊せよ」と発したと共に、手に持っていたプレートは粉々に砕け、僕たちを囲っていた檻は姿を消した。
「はぁ、想定外の出費だったが……、まあいいだろう。付き合わせてしまってすまなかったね。これでひとまず、ボクと君は再び対等だ」
「あの……、まだなんで拘束されたのかとか、歳のこととか……、全然分からない事ばっかりなんですけど……」
「順に説明していくから安心したまえ、とりあえずは座ったらどうかね?」
僕は促されるまま着席した。
タルタロスさんはお茶を一口すすり、どこから話したものか……と続ける。
「では、まずはボクの歳の話からしようか。何故ボクがこれほどまでに長い時を生きているのか。これはグランブルク王国との因縁にも繋がる」
「単に長命な種族だから、みたいな話ではなく?」
「あながち間違いではないかもしれないが、そう単純な話でもない。ボクは元々王国の研究員だったと言ったのは覚えてるかな?」
「はい」
「その研究の題材は……魔族・魔物について、だったのだよ。500年ちょっとくらい前の話さ。……そうだな、レイ君は500年前と聞いて何か思い当たる事は無いかい?」
500年って言われても、正直まだこの世界の事に詳しいわけじゃないから何とも……。
でもなんだか聞き覚えはある気もする……。
「…………あっ、魔王……?」
たしか500年ごとに復活するって話だったはず。
「ご名答。ボクは魔王討伐のため、勇者の手助けになるように研究をしているチームの一人だった。どんな成果があったかは長くなるから割愛しよう。……ではもう一つ問おう、魔族というのは瘴気というものの塊なわけだが、魔物の定義の方は知っているかな?」
「魔物……、たしか野生生物が瘴気の影響を受けて変異したって感じの……」
「間違ってはいない、ただ野生生物という括りは適切ではない。野生生物の方が瘴気に侵される危険性が高いというだけで、瘴気の影響は野生であることや生物であることだけには止まらないのだよ。瘴気が物質に作用して、人間を襲うように変異する。これが魔物化の定義だ」
そう言えばゴーレムもスライムも元は無生物か……。
「なんでも魔物に変えるなんて、瘴気ってヤバいですね……」
「そう、なんでもなのだよ。……人間も例外無く……な」
「……!!」
ヤバいなんてレベルじゃない。
それが本当なら瘴気の塊の魔族なんかと戦ったら危ないじゃないか……!
「そんなんじゃどうやって魔王を倒せば……」
「簡単な事さ、異世界人を使うのだよ」
「もしかして、捨て駒って事……?」
「それは違う。瘴気というのはこの世界のどこにも薄く漂っていてね。それが年単位で蓄積され、最後に強い瘴気などがきっかけで活性化されると魔物化が始まってしまうのだよ。ならば今まで全く瘴気に当てられていない人間ならばいいのではないかね?無論赤ん坊が戦えるわけはない、ならば瘴気の無い世界から戦う者を呼び出せばいいではないか」
……そんな事情があって僕たちは呼び出されたのか……。
なるほどと、納得しかない。
「ただ呼び出される側としてはたまったもんじゃないですけどね……」
「ハハッ、それは間違いないな」
会話パートがちょっと長いですが、どうかお付き合いください。