役割
まさかとは思ったがこんな芸当ができる奴まで存在するのか……。
魔術か能力か、おそらく後者だろう。
魔術でも空間転移を使用して似たようなことはできるだろうが、水や手紙などと違って複雑な構造や原料のものはそれに比例して転移させるためのコストがとてつもなく重くなっていく。
一度リベルグにルブルムの王国であるノヴァ様が転移魔術で飛んできたことがあるが、あの一回でとてつもない額が使用されているらしい。
僕たちなんかの為にどうしてそこまで……とも思うが、真意はどうあれそのおかげで皇帝から色々勉強させてもらったのは確かだ。
そのせいで今この状況に巻き込まれたとも言えなくも無いが……。
「要するにアタシらはこのなんもねぇ部屋と廊下だけの空間に閉じ込められたって事か!?どーすんだよコレ!?」
「まずはこの能力を使ったであろう魔族がこの空間内に居ないかを探してみるのはどうかね?何週したのか分からないが、ボクたちの身体に異常が無い以上、この空間の調査に時間をかけても問題無いという事だ。ならば一つ一つ地道に可能性を潰し、相手の能力の解析を行っていった方がいいだろう?」
「……たしかにそうかもしれませんね。ひとまずはこの空間のサイズの確認と、どこかに魔族が潜んでないか虱潰しに探していきましょうか」
術者が中に居るパターンであればそいつを倒すのが手っ取り早い。
そうじゃない場合はそうじゃないと決まった時点で考える方がスマートだろう。
という訳で、僕たちは役割を分担してこの空間の調査にあたった。
タルタロスさんは廊下の一点で動かずにスタート地点として立っててもらう役割を命じ、ミザリーさんには各部屋を隅々まで捜索してもらい、敵が居れば即撃破してもらう。
僕はミザリーさんと並行して廊下を歩き、一周してタルタロスさんのところへ戻るまでの距離をだいたいで計測する。
「ここにあるもん手当たり次第にぶっ叩いて行きゃいいか?」
「そうですね、叩き逃がしの無いようにお願いします」
「おう、任せな」
探すにしても目ぼしいものは木箱くらいしかないし、試しにって事で壁同様地面にも穴を空けてもらったところ、予想通りその部屋の天井に開通した。
どっかのゲームで見たことのある無限に落下する穴の完成だ。
ミザリーさんが面白がって石を穴に落として遊ぼうとしていたのだが、タルタロスさんに「危ないからやめたまえ」と止められていた。
まあ実際、無限に落下するという事は重力加速によって無限に加速するわけで、下手したらソニックブームのような衝撃波が発生して予期せぬ被害が出ていた可能性もある。
話を戻すが、要するに地面の下なんかには隠れるスペースが無いわけで、それならもう素直に愚直に捜索していくしかないというわけだ。
「あ~ったく、サクーッと魔族全部倒して帰る予定だったのに、どうしてアタシゃ今こんな事してんだか……」
「さすがにそれは僕でも見通しが甘すぎるって分かりますよ……」
「それはそうとレイさんよ、居るか分からねぇけどとりあえず魔族を探すってのは分かるけどよぉ、ここの一周の距離とか測って何に使うんだ?」
「距離なんか測ったところで特に意味はありませんよ?」
「はぁ!?」
「響くのであんまり大声出さないでくださいよ……」
「いやいや距離測るって言い出したのお前じゃねぇか。思い付きとか理由とか無しに行動する奴だったかお前?」
「まあ、強いていうならとりあえずミザリーさんと二人になりたかったからですね」
「ぅえっ……!?おまっ、急にそんな……!レイにはカノンって相手が居んじゃねぇのかよっ」
「……落ち着いてくださいミザリーさん、そういう意味じゃないです……」
「そりゃ密室に男女二人ってのはアタシもシチュエーション的にはアリだけどよぉ~」
「戻ってきてくださ~い」
わざとらしいくねくねした動きをピタリと止め、ジトッと僕の方に視線を向けた。
分かってはいたが戯れの一環だったようだ。
「なんだよぉ、暇なんだしちっとくれぇ茶番に付き合ってくれてもいいじゃねぇか」
「それよりミザリーさんに一つやってほしい事があるので、まずはそっちの話を聞いてくれませんか?」
「しゃあねぇなぁ、そっちが終わったら次はアタシの番だぜ?」
物理学はあんまり詳しくないので、実際のところ無限に落下する石ころがソニックブームが発生するほどの速度まで加速できるのかは分からないです。
そもそも空気抵抗とか気流とかで微妙に落下方向がズレていって上手く真っ直線に落下せず途中で脱線しそうですよね。




