施設
案内されるがままに付いて行くと、そこには大岩があった。
白衣の女性はポケットからプレートのようなものを取り出し大岩にかざす。
プレートの魔法陣が淡く光り、大岩はひとりでにスライドしていく。
大岩があった場所に現れたのは地下へと続く階段だった。
すげぇ、秘密の地下基地とか超ロマンじゃん。
施設と言っていたが、どうやら研究施設のようなものらしく、通された室内のインテリアは本棚とテーブルとイスだけという簡素なものだったが、それらのほとんどの面積は書類や本などで埋められている。
部屋全体を照らす灯りが一つあるが、ランタンのような火を使ったものではなさそうだし、魔術でも使って燈しているのだろうか。
白衣の女性は4つあるうちの1つのイスに積まれた書類を床に退かして僕に差し出した。
ちなみにカノンは施設に入ったあたりで僕にしがみ付いたまま寝てしまい、剝がそうにも剝がれないので抱えたままだ。
これじゃあ完全に子守をしているみたいだ……。
座って待っていると、別室から白衣の女性がカップを2つ持って戻って来た。
「待たせたね、さあ、遠慮せず飲みたまえ、苦いし渋いが栄養もないお茶だよ」
「良いとこ無しじゃねーか」
「香りだけはお茶さ」
テーブルにコトリと置かれたカップに伸ばそうとした手を引っ込めた。
そんな僕の様子を眺めながら、白衣の女性はイスに腰掛けお茶を一口啜り、話を始める。
「自己紹介がまだだったね、ボクの名前は……もう忘れてしまったな」
ちらりと書類を見渡す。
「……うん、タルタロスと呼んでくれ。それが研究者としてのボクの名だ。聞いた事はあるかい?」
足を組み、背もたれに体を預けながら言う。
その存在の節々から僕の中二心を刺激してくるが、それが堂に入ってて恐れ入る。
「僕は篠原励です、篠原でも励でもどっちでもいいです。こいつはカノン。タルタロスさんの名前は申し訳ないですが聞いたことはないです。この世界の時事には疎いもので」
「では短い方のレイ君と呼ばせていただこう」
タルタロスさんは何か考え込むかのように数秒の間片目でカップを覗き込むと、手に持っていたカップをテーブルに置き、その手はズボンのポケットに仕舞った。
気怠げな表情で首をかしげると、こう聞いてくる。
「ところでレイ君、今、この世界の時事には……って言ったね?」
タルタロスさんの紺碧の瞳に鋭さが生まれる。
「では、どの世界の時事には詳しいのかな?」とでも言いたげに僕の瞳を覗き込む。
……もしかして、まずったか……?
特に隠すつもりでも無かったが、異世界人だとバレたらヤバいタイプの人だったのだろうか……。
そう言えば研究者とか言ってたな……。
もしかして囚われて実験体にされたりするんじゃ……!?
「え、えっと……、それは言葉の綾っていうか……」
「目が泳いでいるよ。それに、そういった知識が無ければ言葉の綾も何も無いだろうに」
咄嗟に逃げ出そうと席を立ったが、突然地面から生えてきた黒い棒に阻まれる。
それは檻のように僕の周囲を囲み、逃げ道が完全に塞がれてしまった。
「それはボクの発明の一つでね、その檻の中では魔法が発動しない。原理は……今はいいか。地面と天井に隠れてるがしっかりと上下も塞がっているから安心したまえ」
タルタロスさんの手にはプレートが握られており、その魔法陣が淡く光っている。
まずい、完全に詰んだかもしれない。
そもそも敵地なはずのこんなところに住んでる人をどうして信用して付いて来てしまったんだろう。
助けられて気が緩んだのもあるが、まず疑ってかかるべきだった。
「そう焦るなよレイ君、……そうだ、気を和ませるために一つ問題を出そう。ボクはいったい何歳でしょうか?」
「……当てたら解放してもらえたりします……?」
「考えてあげるよ」
女性の年齢当てクイズなんて低すぎても高すぎてもダメなやつじゃないか!
とはいえ容姿は10代から20代、小柄だが立ち振る舞いには幼さを感じないしむしろ妖艶ささえある。
それにこんな研究施設に籠っておそらく一人で生活してるってなると20はいってるか?
あとはもう勘だ……、中間の25から少し引き下げた……。
「24歳……とか」
「おぉ、惜しいじゃないか」
どうやら失敗したみたいだ……、惜しいならニアピン賞くらいくれないだろうか。
「正解は……、500と24歳3ヶ月だ」
最近地震多くて心臓に悪いですね。