拮抗
……今、伯父と言ったか?
あの魔人が伯父?
…………いや、一瞬その言葉に衝撃はあったが、冷静になればなるほどとは思う。
魔人の言葉や所作にどこか既視感があった理由は皇帝と同じ家系であったからなのだろう。
皇帝と同じくらいの年齢に見えるが、それは魔物化に際して肉体年齢が固定されるせいだ。
自称だがタルタロスさんも24歳の外見のまま500年を生きているらしいし、あの魔人も同じくそうなのだろう。
「……それも皇帝の秘術か。だが今の我には分かる、その力……随分と身を削っているだろう?いや、削っていると言うより蝕んでいるというべきか」
「この程度どうという事は無い。あの増えるだけの雑魚魔族に手こずったのは計算外だったが、日が出る前に始末をつけてやろう」
再び皇帝の足元に魔法陣が光る。
「万神、大天狗・合」
「む……!」
次の瞬間皇帝の背に翼が現れた。
そしてあたりに豪風を撒き散らし、一瞬皇帝の姿が消え、気付けば皇帝は魔人の背後に周っていた。
どうやら掌底を繰り出したようだが、魔人に辛うじてガードされる。
しかし、刀の柄でガードしている事から相当ギリギリだったことが窺える。
魔人は攻撃をいなし、片足だけ半歩引き、居合の構えを取る。
コンマ1秒も無い間の所作から放たれた斬撃は皇帝に当たる事は無く、いつの間にかまた元の場所に戻っており、がしゃどくろが攻撃の隙を突くべく拳を振うが、そっちも躱され当たる事は無かった。
「……私には何も見えなかったのだが、ミザリーにはあの動き見えたか?」
「いや、流石のアタシにも動きは見えなかったけど、でもあの皇帝さんの予備動作でどこ狙ってんのかはだいたい分かったぜ?」
この一瞬でさっきあった翼は跡形もなく消えていた。
あの超速移動は歩法や技術でどうにかなるものなはずがないし、あの翼によるものだと思うのだが、長時間は使えないのだろうか?
あるいは体への負担が大きすぎるのか?
「何にしろあの皇帝さんと魔人の力量差がわりと拮抗してるみてえだし、アタシらが参戦すれば案外サクッと倒せるんじゃねえか?」
「……まあやってみない事には分からないな。ひとまずは私が行く。貴様は待機していろ」
アリオーシュさんが前に出ようとすると、がしゃどくろの拳がこっちに飛んできた。
……殺意はおそらく無い。
アリオーシュさんはその拳を盾で受け止める。
「……何のつもりでしょうか、リベルグの皇帝殿」
「邪魔をするな、これは我の問題だ。この者だけは我の手で始末する」
手を出すなって言ったって、皇帝ももう前日から戦ってるはずだし、限界も近いんじゃないだろうか。
なんて思うものの、言って聞くような人じゃないのは僕が知っている。
多分アリオーシュさんが行っても一対一対一になってしまうだけの可能性が高い。
その事をアリオーシュさんにそれとなく説明する。
「始末だと?笑わせる。これは貴様の贖罪だ。本当に殺してやりたいのはあの娘の方だが、それは上から止められておる。ならせめて、貴様の魂だけはリィンに捧げるとしよう」
「リィン……母上は花が好きだったな。捧げるなら摘めぬ我の魂なぞより花を摘んで捧げた方がよいだろう。まあ、魔人をリベルグの墓地へ入れるわけにはいかぬがな」
魔人はその言葉に何も答えず、再び激しい攻防が行なわれる。
このまま決着が付くまで見ているか、あるいはカノンたちに合流するか。
勝敗がどうなるか分からない以上あまり魔人から目を離さない方がいいと思うが……。
「……ねぇ、キミたち」
「誰だっ!?」
考え事をしていると近くからまったく聞き覚えの無い声が聞こえた。
ミザリーさんは僕を抱えたまま飛び退いて距離を取り、アリオーシュさんはその間に入って武器を構える。
「右手がふわふわしてる子、しらない……?」
そこに居たのは一見すると気だるげな髪の長い少女のようだった。
しかしよく見ると所々パッチワークの跡のようなものがあり、衣服と体が直接繋がっているように見える。
紛れもなく魔族だ。
おまねこくんかわいいね……。
目覚める。




