大鎌
「えっ、一体何を……」
「おそらくレイの言っていた地中を移動できるという魔族だろう。地中から様子を伺っていたようだな」
「いやそれ以前に、どうして真下に居る事が分かったんですか……?」
「神器による恩恵だ。神器が無ければこれ程高度な感知はできない。ミザリーの戦いも見てみるといい、あいつの恩寵と神器の親和性は相当なものだ。それだけは認めざるを得まい」
アリオーシュさんは矛を地面から引き抜き、肩に担ぐ。
地中で見えないはずの相手を本当に倒せたのかどうか、貫いた穴から見えないだろうかと覗こうとしたのだが……、どういうわけかあるはずの穴がどこにもなかった。
アリオーシュさんが穴を埋める素振りをしたようには見えなかったし、穴が埋められたような形跡すらどこにもない。
これがアリオーシュさんの恩寵の能力の一端なのか、あるいは幻覚や幻聴でも見聞きしていたのか。
後者ではないと思いたい。
「おっしゃいくぜ!」
掛け声とともにミザリーさんは短剣を構えた。
手に持ったその短剣は徐々にその姿を変え始める。
どんどん巨大化していき、最終的にはもはや人が振り回せないであろうサイズの鎌へと変化した。
分身魔族にもどよめきが走る。
「武曲・草刈鎌!!」
ブオンッと巨大な鎌が大気を揺らした。
その一振りは草はおろか、分身魔族や木でさえも輪切りにし、少し間をおいて倒木の衝撃音が何度も響き渡った。
倒木によってミザリーさんの前方が扇状に枯れ木の残骸と化したのだった。
僕はその光景に言葉を失う。
これが神器の力なのだろうか、シンプルにパワーや切れ味が素の状態とは比にならないほどになっている。
「はぁ……。後先を考えろといつも言っているだろうこの馬鹿者が。かえって見通しが悪くなっているではないか」
「まあまあ、戦うのはアタシなんだからこんくらいいいだろ?そんな事よりレイの事頼んだぜ!」
……いや、野暮だとは思うが、そもそも他国の森林をこんなにバッサリと伐採してしまった事の方が問題なのでは……?
場合が場合なだけに致し方無さはまああるんだけど……。
とはいえ、この一撃で分身も結構な数斬った事も確かだ。
しかしまだ分身がちらほら見えるという事は、本体には攻撃が届いていなかったという事でもある。
本体を叩くためにミザリーさんは分身の群れへと突撃し、倒木で見えにくいが暴れ回っているようだ。
そんな中をすり抜けてきたのか迂回してきたのか、分身が何体か現れ僕に襲い掛かってくるが、アリオーシュさんが全て処理してくれる。
分身の魔族自体、単体では多分僕でも簡単に倒せるくらいの実力だろう。
数に物を言わせた戦術は厄介だが、この程度ならおそらく大した脅威ではないはずだ。
「どうやら私の感じた嫌な気配というのはこの魔族ではないようだな。だが、奥の方からその気配はまだ感じる。この分身の魔族の他にも魔族が居たのか、あるいは……」
「皇帝……ですかね。知ってるかもしれないですけど、リベルグの皇帝は瘴気を操作する魔術を使います。もしかしたらその何らかの魔術の影響かもしれません」
「……どちらにしろ警戒するに越したことはない。安心しろ、私より後ろに攻撃は通さない」
「は、はい……」
手負いの僕が下手に動いても足手まといになるだけだ。
自分で言うのもなんだが、少女に守られる事には慣れている。
慣れてしまっている。
ここは指示通り大人しくしておくべきだろう。
大事なのは経験を次に活かす事、次が来なければ元も子もないのだ。
最近また個人的マインクラフトブームが再燃し、湯水の如く時間が溶けてしまっています。
助けてください。




