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白衣

 何が起こったかを理解した時にはもう遅かった。


 足首まで粘性のある半透明な紫色の液体で覆われていた。


 ぐにゃぐにゃと動くそれは地面から湧き出るように体積を増し、だんだんと上に登ってきている。


 敵は地中に潜んでいたせいで僕もカノンも見つけられなかったようだ……。


 そして足元を覆われているのは僕も例外ではなかった。



「なっ!なにこれ!?」

「もしかしてこれスライムかっ!?」



 カノンは足にまとわりつく液体を剣で刺したり斬りつけたりしているが、全くと言っていいほど効果はない。


 そしてそこから飛び退こうとジャンプしたせいで、スライムに足を引っ張られ尻餅をついてしまった。


 スライムはそんなカノンに容赦なく襲い掛かる。



「や……やだ……!助けてっ!」

「くっ!」



 伸ばされたカノンの手を取るが、力いっぱい引っ張っても引き上げることができない。


 幸いと言っていいのか、毒々しい色とは裏腹にこの液体自体は特に害は無さそうで、対象を取り込んで溺死させるのが目的だろうか。


 それまでにこの状況をどうにかする策を見つけなければ……!


 と思考を巡らせていると、紫色の液体ではない何かが地中から出現するのが見えた。



「……コアだ!このスライムにもコアみたいなやつがある!」



 正八面体の石のようなものがスライムの中を動き回っている。


 それがコアであるかは定かではないが、一刻を争うこの状況では即時行動に移すしかない。


 僕はまだ立っていられていて、腕まではまだ取り込まれていない。


 右手で剣を取り、カノンに取り付くスライムのコア目掛けて突き刺す……が、スライムの中を自在に動き回れるそれは易々と攻撃を躱す。



「クソッ!クソッ!当たんねぇ!」



 何度突き刺そうとも躱されてしまう。


 カノンならあるいはコアを攻撃できるかもしれないが、恐怖からか目を瞑ってしまっている。


 やはり僕がやるしかない。


 スライムはもうカノンの首元まで迫ってきている。



「いやあああああああああっ!!!!!」



 カノンの悲痛な叫びが響き渡る。


 何とか耐えていたカノンももう限界だ。


 アクアコンダクターも効かないし、ファイアーボールはスライムを多少蒸発させてる気もするが、ちまちまやってちゃ到底時間が足りない。


 とにかくカノンのスライムをどうにかしようと悪戦苦闘していると、後ろから何者かの声が聞こえた。



「崩壊せよ」



 その言葉と共に、スライムのコアは粉々に砕け、まとわり付いていた液体は力を失ったようにバシャリと音を立てて地面へと落ちていった。


 振り向くとそこには気怠そうにしている小柄な女性が立っていた。



「何やら外が騒がしいと思ったら……、大変なことになってたようだね、間に合って良かった良かった」

「あ……貴方は……?」

「それはこちらのセリフだがね」



 声の主はモサッとした銀髪の癖っ毛を揺らし首を傾げた。


 左目には眼帯をしていて白衣を身にまとう、なんていうか中二病が見たら歓喜しそうな風貌だ。


 それにしてもこの女性はいったいどこから現れたのか。


 僕も、おそらくカノンもこの島でこの人を見かけてはいない。


 なんて気に取られていると、カノンが僕の胸元に飛び込んできた。



「ぐぇっ!」



 あばらを折りそうな勢いで飛びつくもんだから反射的に引きはがそうとしたが、カノンの肩は小刻みに震えていた。


 余程怖かったんだろう。

 僕はなされるがままに、そっと背中を撫でる。



「お熱いねぇ」



 白衣の女性から茶々が入る。



「いいいいいや、そ……そういうのじゃ……」



 やばい、今は第三者が居るんだった……!

 どうしようかとワタワタしていると白衣の女性が言う。



「すまんね、怖い思いをさせてしまったのはボクのせいだ、よもや魔素体が逃げ出していたとは、ボクの管理が杜撰だったね」

「魔素体……?」

「君がスライムと呼んでいたやつさ、確かに性質はスライムに似てるが別物なんだ」



 魔素体とやらをこの人が管理していて、いつの間にか逃げ出していたのに気付かなかった。


 ということらしい。



「……っていうか僕がスライムって呼んだとこから聞いてるんだったらもっと早く助けてくれても……、いや、助けてくれてありがとうございます」



 命の恩人に文句は言えまい。



「こんなボクにも身支度ってものがあるからね、寝起きの下着姿のまま出てこられても困るだろう?」

「寝起きって……、もしかしてこんなところに住んでるんですか……?」

「その通りだが?」

「……僕たちはここが魔物の大量発生源になってるっていう冒険者ギルドの依頼を受けて来たんですが、何か関係があったり……?」

「あー、それもボクのせい……もといあの魔素体のせいだろうね。立ち話もなんだし施設に案内しよう。お茶くらいは出せるよ、本当にお茶しかないけど」



 そう言うと白衣の女性は僕の返答を聞かずに歩いて行ってしまう。


 仕方なく僕も震えるカノンを抱きかかえたまま後を追った。


 なんか僕、こっちに来てから女の人を追いかけてばっかりな気がするな……。

ワクチンの副反応でめっちゃ関節が痛いので、評価・ブックマークよろしくお願いします。

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