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苦手

「何難しい顔してるんだ?早く寝るぞ!」



 と、後ろから声が聞こえた。


 いつの間にかカノンが後ろに回り込んでいた。


 振り向くよりも早く抱き着かれる……、というよりガシッとホールドされた。



「ちょっ!カノン!?」



 もがこうとしてもビクともしない。


 そして僕の足が地から離れる……、カノンに持ち上げられたのだ。


 押し当てられている胸の感触が少しあるが、両腕と胴体を締め付けられる刺激が勝って気にしてられない。


 一体何をしようとしているんだ……?


 正直抱き着かれた時はドキッとしてしまったが、このままジャーマンスープレックスでもされそうな体勢で、違う意味でドキドキしてしまっている。



「お……下ろしてくれないか?僕はここで朝まで見張りしておくから……」



 ブオンと一度だけ大きく振り回されると、カノンはそのまま自分諸共横に倒れた。


 僕が即席で作った毛皮の毛布にドサッと寝転ぶ形になった。



「ダメ……、良い子は寝る時間」



 そう、僕の後ろで呟いた。


 どうやらカノンは僕を寝かしつけようとしたようだ。


 カノンとしては、夜はちゃんと寝なきゃいけないルールなんだろうか、宗教的な理由みたいな。



「……せめて腕離してくれないか……?」



 色々考えた末に諦めて言う事を聞こうと、そんな言葉を発した頃にはすでに遅く、カノンは静かな寝息を立てていた。


 これじゃあ昨日の二の舞いじゃないか……。


 っていうか昼間は速攻走ってどっか行っちゃうのに、どうして夜はこんなにベタベタしてくるんだ?


 緩急が激しすぎる。


 ていうか声の振動が直接伝わる程密着された状態でまともに寝れるわけないだろ……!




 結局それから1時間くらいは寝付けることができなかったが、なんだかんだ睡魔に負け眠りにつく事ができた。


 しっかり休めたとは言い難いが、カノンに叩き起こされ3日目の朝を迎えた。


 急かされるがまま焚き火を再点火し、昨晩の残りの肉を焼いて食わせる。


 僕も軽く食事を終わらせると早速レベル上げのために魔物狩りを再開した。


 これと言ったハプニングも無く、僕のレベルは27まで上げる事が出来た。


 割り振ったステータスポイントは、VITに30、AGIに30、MAGに200。


 正直30割り振ったくらいじゃあんまり効果の実感が無かったから、全部MAGでも良かった気はする。


 この辺の魔物との戦闘にも慣れてきて、魔法攻撃も織り交ぜながら戦ったりもできるようになった。


 特にウォーターショットの上位魔法であるウォーターブレイドは水の刃を飛ばす遠距離攻撃で、攻撃力もまあまああって便利だった。


 ウォーターショットは水弾をぶち当てる魔法で、言わば打撃系の攻撃だ。


 ウォーターブレイドと比べるとかなり殺傷能力は低くて実戦ではあんまり使えなかった。


 一度試しにウォーターショットをウォーターブレイドみたいな形になるようイメージして使ってみたが、水弾は水弾のままだった。


 魔法の性質自体はどうイメージしても変えることはできないようだ。


 と、そんな与太話はさておき、ようやく準備を終えた僕たちは再び川まで戻って来たのだった。



「なあレイ、川の中歩くって本当に大丈夫なのか……?」

「僕がさっき試したし大丈夫だろ」



 カノンは不安そうに尋ねてきた。


 既に一度アクアコンダクターの試験もしてある。


 僕が思った通り、川の中に球状の空間を作って川底を歩くことができた。


 ただこの魔法は時間経過でMAGを消費していくため、MAGが切れる前に渡り切る必要はある。


 まあそもそも水の中に空間を作ったとしても、外部から酸素を取り入れることができるわけではないし、どっちにしろ長居はできないが。


 MAG的には1分くらいは持つ。


 40mを渡り切るには十分な時間だろう。



「よし、行くぞカノン、流石に今回ばかりは先に突っ走らないでくれよ?」

「……わかった」



 MAGが最大まで回復しているのを確認し、アクアコンダクターを発動すると、僕たちは川の中へと歩き始めた。


 ほどなくして水の壁が周囲を埋め尽くす。


 カノンも大人しく僕の後ろについてきている。


 というより僕にしがみ付きながらついてきている



「……まだか?」

「まだだけど───」



 僕の背中に額を当てながら言う。


 普段からは想像もつかないしおらしさだ。


 さながらお化け屋敷に入った子供みたいに……。



「もしかして、水が苦手なのか?」

「…………うん……」



 今までカノンは全くの怖いもの知らずだと思っていたのだが、かわいらしいギャップもあったものだ。


 なんて思っているとカノンが話始める。



「……昔、川に流されて滝から落ちたことがあって……、その時はパパが助けてくれたんだけど、水の中ですごく苦しくて……本当に死んじゃうかと思って…………」



 と、一瞬の和みを吹き飛ばすかのようなガチもののトラウマ話だった。


 川をくぐって渡るという話をした時から元気が無かった理由がそこにあった。


 僕の後ろをビクビクしながらついてくるカノンの為にも早くここを抜けよう。



「大丈夫、着いたら教えるからそのままついてきて」

「わかった……」



 それに天真爛漫な彼女がこんな様子だと僕も調子が狂う。


 できるだけ安心できるように、カノンの手を握り、少し歩調を速めた。

今日は若干だけ長くなってしまった。

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