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捏造

 状況を一瞬で理解したボクの胸の内は、もはや焦燥や絶望を通り越して諦観で埋め尽くされた。



「貴様……ここにはもう顔を出さないと言っていなかったか」

「よもやそれを鵜呑みにしたのか?」

「くっ……」



 もちろん忘れていた訳ではない。


 それでもこの仮面の魔族が現れず、ボク一人で角の魔族に勝つという分の悪い賭けをしただけだ。


 結果は惨敗だったが。


 2対1、現状角の魔族の拘束に成功しているとしても、もう一方に背後を取られている状態では手も足も出ない。


 正確に言えば手を出したところでビクともしない。


 シンプルに力負けしている。


 心底不快なこの角を握る手をずっと剥がそうとしているのだが、両手を使っても指一本動かない。



「ところで、どうじゃアルケー、そやつは使えそうかの?」

「ああ、話は聞いていた。瘴気を与える能力か、自身に利の無い能力とは珍しいが、たしかにあの妃様とはまた別の使い道があるな。まあ純魔族ではないから私の命令を素直に聞くかは分からないがね」

「……彼らを解放しないのであれば言う事を聞く義理も無いな」

「ふむ、なら言う事を無視できないように調教してやるほかあるまい。アルケー、そのまま抑えておくのじゃ」



 角の魔族は檻に手をかけると、門扉でも開くかのように力任せに抉じ開け脱出口を作った。


 いったいどんな腕力をしているんだ……。


 一人でどうとでもなると自信満々に言っていただけの事はあるということか。



「言うてわしもこういうのは久々じゃ。加減を間違えたらすまんのう、アルケー」

「問題無い」



 ……助けを呼ぶしかない。


 さっきとは違って仮面の魔族も居る状態だ。


 カノン君とミザリー君が相手をしてくれるはず……。


 角の魔族もレイ君たちが近くに居る状態なら加害できないはずだ。


 この距離で声が届くかは心配だが……。



「──レい゛っ!?ぐ……!かはっ」

「助けなぞ呼ばせるわけが無かろう?」



 内臓を押しつぶされる感覚。


 頭を抑えられていて確認することはできないが、おそらく角の魔族の拳が鳩尾に入っている。


 声が出ない……、呼吸がしんどい……。


 そしてそんな状態のボクに追い打ちをかけてくる。



「ちなみに言えば既にあの焚き火の場所に奴らは居ない。私の幻影を追って、今頃私たちとは離れた場所の森で彷徨っているだろう」

「周到じゃのう。もう離してよいぞアルケー」



 角を掴まれていた手と入れ替わりに首を掴まれ持ち上げられる。


 足が宙に浮く。



「わしの能力の発動条件を教えてやろう。気になっていたんじゃろ?答えは簡単じゃ。相手の意思でわしに手で触れる事。つまりわしを殴り飛ばしただけで発動するわけじゃ」



 ……今更な話だ。


 だが、この首を掴む手を引き剝がすのに手を使えない事が確定してしまった。


 脚をバタつかせようとも効果が無い。



「はてさて、言うことを聞かせるためにまずどこからいこうかの?脚か?腕か?いや、手は大事じゃしの……。手っ取り早く目ん玉からいくか?よし決定じゃ、自慢のその目ん玉から抉ってやろう!」

「おいメメント、それが無くなったら本末転倒では無いのか?」

「言う事聞かんやつの目ん玉なんぞ要らんじゃろう?それとこやつはまだ成りかけじゃ。変化が進めば右眼もこうなる可能性があるじゃろ?」

「……それもそうだな」



 冗談じゃない……!


 今のボクがこの左眼を失えば魔物化の抑制が利かなくなる。


 仮に右眼にも同じ能力が宿るとしてもそこまでの侵食を許してしまえばもう手遅れだ……。


 言葉で抵抗しようにも息もままならないこの状態では掠れた声さえ出ない。


 それでも容赦なくボクの左眼にのびる鋭い爪を、ボクは咄嗟に手で払い除けてしまったのだった……。



「……ようやくわしに触れたのう。褒美にわしの能力の詳細を教えてやろう」

「わざわざ教える必要も無いだろう」

「さっきは能力の発動条件を教えてやったしせっかくじゃ、それに知ったところでもはやどうにもなるまい」



 首から手が離れ、地面に倒れ込む。


 咳が止まらない。


 そしてそれ以上に……体の震えが止まらない……。



「わしの能力、『リメンバーミー』は記憶にわしの事を書き込む能力じゃ。記憶の書き換えではなく記憶の追加。そして記憶の齟齬にも気付けん」

「私とメメントは数百年の付き合いだが、実際それが本当かどうかも怪しい所だな。まあ気にしていないが」

「要するに記憶の捏造ができるわけじゃが、その内容はある程度操作できるのじゃ。楽しい記憶であればレイらのように友好を得られる。じゃが逆に、恐怖と共にわしの記憶を植え付けたらどうなるか、おぬしの頭なら分かるじゃろう?」



 俯くボクの髪を掴んで、顔を上げさせられる。


 角の魔族と目が合ってしまう。


 その瞬間心臓が跳ねる。



「わしが恐怖の根源となる」

「ひっ……!」

「恐怖に強い人間弱い人間様々じゃが、おぬしは恐怖というものに慣れてはおらんようじゃな。扱いやすくて助かるわい」

未だに半分くらい正月気分です。

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