勧誘
「たしか100年程度……いや200年程度前、もっと前じゃったか?忘れてしもうたがまあよい。とある冒険者とやらと戦うことになっての。まあ大して強くは無かったのじゃが、どんな最期だったかおぬしに分かるかの?」
「……ボクがそんな事知る訳が無かろう」
「5人おったんじゃがの、1人を残して全部死んだ。4人ともその1人を生かすためにその身を盾にしたのじゃ。曰く親友じゃからとな。わしは当時その意味が解らんかった。この人間どもは何故命令もされておらんのに命を投げ出すのか?と。それもそうじゃ、わしら魔族には親友はおろか友という思想そのものが無かったからのう。おぬしもそういうタイプじゃろう?」
「まあ、正直ボクもその感情はあまり良く分からないがね。だが魔族の利己主義ともまた異なる価値観だから勘違いしないでくれたまえ。ボクはボクの知識欲のために命を賭けている」
「わしの言いたい事とそう変わらん。おぬしは友の為であっても自らの命は懸けん。わしはそういう奴を判別できる。ちなみにこれは能力ではなくただの特技じゃ」
「……否定はしないが、あまり趣味のいい特技とは言えないな」
たしかに、契約上レイ君には死なれては困るが、レイ君以外の命とボクの命を天秤に乗せたなら、当然自らの命の方が重い。
強いて言えばカノン君に死なれては聖剣の調査が困難になるため守れる範囲なら守りはするが、命と引き換えに守るかと聞かれれば答えは否だ。
「わはは!そういう奴と親友になっても大して使えんからのう!さて、話を戻すのじゃが。わしは人間が親友というものに命さえ懸けうる事を知って、これは便利だ思ったのじゃ。それからはわしの能力『リメンバーミー』の使い方を変え、人間の親友を増やすことに注力するようになったというわけじゃ」
「真っ当な理由だとは思っていなかったが、やはりと言ったところだな」
「真っ当な理由じゃろう?人間は親友になるだけでわしの為に死んでくれるのじゃぞ?それに戦って殺すより楽じゃしの。ローリスクハイリターン的なやつじゃ」
「…………」
ボクもあまり他人の事を言えた義理ではないが、やはり徹頭徹尾自分の事しか考えていない。
そもそも親友というものに対する価値観が捻じ曲がっている。
そして魔族にはその価値観の乖離に自覚が無いのだ。
他に比べて極端に瘴気の薄いリタ君でさえ、実害の出るものでは無いものの、自らが憂いなく過ごすためという利己的な目的の手段として商の道を選んだあたり、やはり魔族としての価値基準で生きていると言えよう。
しかしこの魔族はそんな価値観の隔たりがあろうとも、親友であるという認識を植え込む能力を持っている。
この魔族自身は魔族としての親友に対する価値観で接しようとも、レイ君たちはレイ君たちなりの親友に対する価値観で行動するだろう。
『リメンバーミー』と呼称していた能力、はたして攻略法があるのか……?
「じゃからわしは別におぬしが親友になってくれなくとも構わんのじゃ。わしの為に死ねない奴は居ても居なくても変わらんからの。故にわしはもうこの場に欲しいものは無い」
「……なら何故、一対一になるというリスクを冒してボクの呼びかけに応じたのかね?この距離では自慢の親友も身を挺して守りに来る事はできまい」
「わしの親友になってくれるかどうかはどっちでもよいが、どちらにしろおぬしを勧誘しようと思っておったのじゃ」
「勧誘だと?」
「そうじゃ。我が友アルケーはとある目的のために色々と準備をしておっての。戦力の増強も必要じゃ。おぬし、魔人の成りかけじゃろう?成ってしまえばもう人間界では過ごせまい。どうじゃ?アルケー率いる、新魔王軍に来る気は無いかの?」
ハイパーインフレーションめっちゃ面白いので読んでない方是非読んでみてください!
最初の方「なんこれ?」ってなるかもしれませんがなるべく耐えてください。
中盤からどんどん面白くなっていきます。
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