一歩
暇潰しにやっていた魔法の検証で一つはっきりしたことがある。
それは、魔法で発現した物質はある程度経つと完全に消えて無くなる、ということだ。
眠気覚ましに浴びた水魔法で濡れた服はひんやりとした温度を残して、さも濡れた事実なんてなかったかのようにいつの間にか乾いてる。
ファイアーボールで焚き火に火がつくのは、その熱の影響で魔法とは関係のない発火が起こったからだ。
ストーンウォールがゴーレムを倒した後完全に消滅していたことからなんとなく仮説は立てていたが、やはり魔法は一時的に現実に影響を及ぼすが残存はしないらしい。
ただ、魔法から発生したエネルギー……、具体的にファイアーボールの熱エネルギーやウォーターショットの運動エネルギーは現実に影響を及ぼしたまま消えるので、上手いこと使えば発電なんかを効率的に行えたりするんじゃないかな?
と、しょうもないことを考えていた。
いや実際使えるかとかは専門家じゃないから分からないけど。
今のところのメリットとしては、ウォーターショットで水洗いした後に、干して乾かす必要が無いって事くらいか?
まあそれも、飛ばした水の弾の威力がいい感じに減衰するくらい離れてやらないといけないので地味に不便だが。
「なんか……、魔法でできる裏ワザみたいなの……、あったりしないかなぁ……」
なんてぼやきながら、次はどんな実験をしようか考える。
僕がやってるような事はこの世界の人が既に通った道ではあるはずだから、本当は誰かに色々教わった方が早いんだろうけど、グランブルク王国に居た時はまだちゃんと教わってなかったし、こっちに飛ばされてからも誰かに詳しく話を聞く機会も無かったしなぁ。
カノンは……、あんまりそういうの詳しくなさそうに見えるけど……。
聞くだけ聞いてみるのもありか?
ついでにレベルとかも気になるし、あとで聞いてみるか……。
なんて思ってると、すやすや寝ていたカノンが突然むくりと起き上がった。
「ど……どうしたんだカノン……?」
まだ夜中だ。
最初は寝惚けているのかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。
カノンは剣を手に取り鞘から抜いた。
暗くてよく見えないが、片膝立ちで剣を構えながら、その瞳はどこか遠くを注視してるようだ。
僕もその方向を確認してようやく気付いた。
「……敵か?」
「レイも起きてたのか、魔物か分からないけどこっちを狙ってる」
距離は分からないが、遠く、少し高い位置ににうっすらと光る双眸が見えた。
僕も警戒しながら次の動きを待った。
それからしばらく、むこうもこっちも動きは無かったが、一つ策を思いついた。
「カノン、少し眩しくなるから気を付けてくれ」
「……魔物か分かんないから、倒しちゃダメだぞ?」
「了解」
僕はステータスポイントを全部MAGに振り分けた。
右手を相手の位置より少し右に逸らした辺りへ向ける。
イメージするのは威力ではなく、精確さと速度と飛距離。
ゆっくりと狙いを定め……放った。
「ファイアーボール……!」
手のひらに現れた火球がゴウッと空気を揺らし、まっすぐに相手の横を通過して飛んで行った。
いわゆる威嚇射撃のようなものだ。
こちらを見つめていた双眸の主は火球に照らされ、その全貌を表す。
それは高く反り立つ岩の上に佇むフクロウだった。
見えたのは火球が通り過ぎる直前で、すぐにどこかへ飛んで行ってしまったから魔物かどうか僕には分らなかったが、好戦的ではなかったところを見るにただのフクロウだったのだろう。
「……逃げてったな、他にも何か居たりするか……?」
「ん~、大丈夫そう」
そう言ってカノンは剣を仕舞った。
多分さっきのフクロウも当分こっちに近づくことはないだろうし、とりあえず一件落着か。
「ふぁ~~あ……、まだ寝る時間だし、レイも寝るぞ」
大きな欠伸をしながら僕を小突いてくる。
もしかして寝ながらさっきのフクロウに気付いて、対処するためだけに起きたのか……?
昨日のもこんな感じで魔物を倒してたのかもしれない。
危機察知能力どうなってるんだ……?
とも思ったが……、そうだ、カノンは今まで一人で全部やってきてたんじゃないか。
今更僕が加わったところで、カノンにとって特に何か変わることはないのかもしれない。
それでも……、僕は僕のできることをやっていこう。
改めてそう決意を固めた。
それが、仲間としての第一歩だと思うから。
ウマ娘やりながら執筆してると圧倒的に筆が遅くなるけど自制できない……。