経緯
「魔王……ですか……、それはこの世界の住人だけではどうにもならないものなのでしょうか?」
「我々だけでどうにかしたいのは山々なのだが、数千年の歴史の中で、我々の力のみで太刀打ちできたことが一度として無いのだ……、魔王は500年に一度復活を成す、そのたびに我々は異界より勇者を召喚し魔王を討伐してもらうことで滅亡を逃れてきた」
だからって問答無用で呼び出すのは理不尽が過ぎると思うが。
とはいえ魔王と来たか、定番と言えば定番だが、自分が実際に魔王と戦うなんて言われてもあまりイメージが湧かない。
僕はただの高校生だ、勇者を操作するプレイヤーでもファンタジー小説を書く作家でもないんだ。
「呼び出された理由は分かりました、ですが僕たちはただの学生で、力添えになれるとは思いませんが」
「召喚により異界から来た勇者たちには、我々には無い能力を有していると聞く、4000年より前の記録は失われているが、先代の勇者は魔物を使役する能力を、その前の勇者は相手の能力を詳細に知ることができる魔眼を、さらにその前の勇者は四人組で召喚され、変身という能力を駆使して魔王に打ち勝ってきた、貴殿らも例外なく特別な能力を持っているはずだ」
「特別な能力、ですか……」
「ユニークスキル、とも呼ばれているな、どうやらこの世界で生まれた者には備わることの無い能力のようでな、その力を貸して欲しいのだ」
元の世界でそんな能力があった覚えはない、この世界に来て初めて与えられる能力という事だろう。
俗に言う「転生特典」というものか、今回は転生ではなく転移だが。
伊藤君が喜びそうな話だ、彼はそういったファンタジー物のライトノベルを好んで読んでいた、後で話を聞きに行けば色々教えてくれるかもしれない。
「つまりそのユニークスキルが無ければ魔王とやらに太刀打ちができない……と」
「如何にも、元々関係のない貴殿らを巻き込んでしまう形で非常に心苦しいが、我が国、ひいては人類の文明の存続がかかっているのだ、当然援助も惜しまぬし相応の身分も与えよう、どうか引き受けてくれぬか?」
「すみませんが、それはすぐには決められないです」
「あぁ、そうだな、これほどの人数で召喚が行われたのは類を見ない、意思の統率も大変であろう、魔王の復活まではまだ時間がある、十分に時間をかけて決めてもらって構わぬ」
たしかに、よく考えればクラスメイト25人まるごと召喚とか、なかなかに大雑把というか……、召喚する対象ってランダムなんだろうか?
まぁ選べるならもっと強そうな人召喚するよな、葛木君は強いけど。
他に上げるとすれば柔道部の蛭間さんと弓道部の竜胆さんあたりだが、どちらも女性だしあんまり危ないことは神楽坂が止めそうだ。
そもそもうちのクラスは運動部所属があまり居ない。
そう考えると相手方も相当ハズレくじを引いたんじゃないかと思い始め、地味に同情心が湧いてきた。
「最後に一つ、一番重要なことを聞きます、……僕たちはちゃんと元の世界に帰ることはできるのでしょうか?」
それはおそらくこの場の全員が不安に思っている事だ。
勝手に連れてこられて帰れないと言われれば謀反も辞さない。
なんて冗談はさておき、少なくとも相手方に協力する道理は無くなる。
正義感の強い神楽坂はそれでも魔王とやらを討伐しには行くのだろうが僕は御免だ。
「帰れるとも、だが今の我々にそのすべはない」
「それはどういう……」
「説明するにはまず貴殿らを召喚した方法から話すべきであるな、やや長くなるがよいか?」
「はい、大丈夫です」
国王は一呼吸置き語り始めた。
「この国には神星石という、それは地中深くに根を張っておって動かすことはできんが、地脈から徐々に魔力を吸い上げ備蓄する巨大な石がある、およそ500年間溜め続けた魔力を使ってようやく召喚魔術を成した、それで呼び出されたのが貴殿らというわけだ、500年という言葉から察しが付いていると思うが魔王が復活する年月とほぼ同じである、なぜなら魔王もまた同じ性質をもった石の魔力で蘇るからなのだ、この石は魔星石と呼ばれている、だが魔王はその魔力を使って蘇るのではなく、その魔力に瘴気が集まり魔王として形を成す、詳しい事はまだ判明してはいないが石に蓄えられている魔力はほとんど消費されていないそうなのだ、つまり帰りにはその魔力を使って帰還魔術を発動させるというわけであるな」
「なるほど、……とは頷いたもののいまいちどういうことかさっぱりですが、ざっくりと言うなら魔王を倒して魔星石を使えば帰れるという事ですね」
「その認識で相違ない」
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