戦法
「橋を架ける魔法とか都合のいいものなんてないよなぁ」
淡い期待を胸に魔法書をペラペラ捲ってみるもそんな魔法は存在しない。
逆に水の上を渡れる魔法なんかないかと探してみたらそれに近い、周囲の水を操る「アクアコンダクター」という水属性魔法があった。
多分これなら水を操り球状の空間を作ることで川底を歩いて渡れるんじゃなかろうか。
とも思ったが、そもそもこの魔法を取得するためのスキルポイントが圧倒的に足りない。
「僕も魔物と戦って少しでもレベル上げしとけばよかったな……」
カノンが全部やっつけてくれるもんだから、なすがままにしていたのが悔やまれるか。
まあでもレベル上げしてたとて多分必要なスキルポイントを貯められてたかどうかは分からないか。
アクアコンダクターを取得するまでに必要なスキルポイントを数えると25だ。
今のレベルは22で、残ってるスキルポイントは11だから、あと14も上げなきゃいけない……。
レベルを上げるのに必要な経験値は指数関数的に増加する、数日かけてレベル30行けるか行けないかくらいの見積もりだ。
ここから14も上げるのは絶対時間がかかる。
「……待てよ、今のレベルから上げるのが難しいなら、レベル1から上げ直せばいいじゃん」
そうだ、異世界人の僕に与えられた特別な能力があるじゃないか!
レベルを1から上げ直すなら必要な経験値も少ない。
ゴーレムは特殊な事例だったが、昨日だけでレベルは21まで上げられたんだ。
レベル26までなら頑張れば2日くらいでなんとかなるかもしれない。
そんな希望的観測の元、僕は腰を上げた。
「よし、まずはカノンと相談だな」
カノンは今頃川沿いを走っている事だろう。
とりあえずは合流すべく、カノンの走って行った方へ歩いて行った。
しばらく歩いていると川下の方からカノンが走ってきているのを見つけた。
「お~い!」と大声を上げながら手をブンブン振ってこっちに近づいてくる。
僕の目の前まで来ると、砂利を飛び散らせながら急ブレーキで止まる。
さっきも観た光景だ。
「橋はあったか?」
「なかった!」
「でしょうね」
2往復したら橋が出現するなんてアホみたいな仕掛けは当然なかったようだ。
ていうかヒントも無しにそんな意味の分からないもん作るような奴が居たら一発ぶん殴ってやりたい。
ってのは置いておくとして、今はさっさとレベル上げに入りたい。
僕は単刀直入に話を切り出した。
「島に渡る方法が一つ見つかったんだけど、そのためには魔物を倒してレベル上げをしなきゃいけないんだ」
「レベルあげ?」
「あぁ、具体的には一回リセットして26まで上げたい、そのために悪いんだが手伝ってもらえないか?」
「わかった!……何をすればいいんだ?」
「協力して魔物を倒すだけで大丈夫だ、カノンが倒さない程度に攻撃して、僕が仕留める感じで」
カノンは顎に拳を当て首を45度傾けた。
効率を求めた策だが、何か不満だったのだろうか……。
「う~ん……、魔物でも痛いのは良くないよ思うなぁ……、やるなら一発でサクッとやってあげないと!」
と言う。
どうやら過度に攻撃を行うのは気が向かないらしい。
思い返してみれば、カノンが全て一発で首を落として仕留めていたのはそういう理由があったのか。
理屈は分からなくもない、魔物は野生の動物が変異したものだ、攻撃をすれば叫び声を上げる事から痛覚があるんだろうって事も分かる。
正直僕にその感性はあまりないが、カノンの気持ちは尊重するべきだろう。
「そうだな……、じゃあこうしよう───」
魔物は基本数匹で群れている。
僕がその内の1匹を相手にして、カノンにその他の魔物を倒してもらう。
効率は落ちるが着実にレベルを上げていける、カノンが居るからこその戦法だ。
説明を聞くと、カノンはなるほどと首を縦に振った。
「無駄にちゃんとした装備してるけど僕全然強くないから、僕が相手するやつは一発で仕留められないのは勘弁してくれよな」
「まーそれは仕方ないことだな」
と、なんか少し見下された気分だが、カノンの協力を取りつけることができた。
日は少し傾いているが、まだまだ時間はある。
僕たちは魔物狩りをすべく、一つ前の森林まで戻ることにした。
もちろんダッシュで。
僕はこの後リセットする関係上、残しておく必要の無くなったステータスポイントをVITとAGIに割り振り、今回はカノンと一緒に走った。
それでも距離は徐々に離されていったが。
さっきもずっと走ってたのに本当どんな体力してるんだこいつは……。
評価・ブックマークよろしくお願いします。