距離
思った以上にあっけなく森を抜けることができた。
まあ出てくる敵全部カノンが薙ぎ倒してくれたからだが。
朝早くから出発したおかげで日はまだ高く上っている。
「そろそろ昼休憩にしないか?ギルドから支給されたパンとかがあるからそれを食べよう」
2人分持っていた荷物の片方をカノンに差し出す。
カノンは「こんなものを隠し持っていたのか!」と言ったが、別に隠してないしリッテさんの説明聞いてなかったのはお前だろとツッコむついでに、カノンの口にパンも突っ込んでやった。
口で受け取ったパンをモシャモシャと咀嚼するカノンの横で、僕も乾燥した硬いパンを咥えながら、見晴らしのいい草地に腰を下ろし地図を広げる。
「さて、この先に大きな川があるらしいな」
「おごああおわあえばおおがいっがいいうーあお!?」
「飲み込んでから話しなさい、ベタな事しよって」
手当たり次第に食料を口に放り、リスみたいにほっぺを膨らましている。
一生懸命口の中をモゴモゴさせてるから少し待ってあげよう。
「その川を渡れば魔物がいっぱいいるんだろ!?」
「まあ、そうだけど……」
まだほっぺに食べ物を蓄えながら舌の上のものだけ飲み込んで喋っている。
無駄に器用な事をする……。
「正確には、大きな川が二手に分かれるところがあって、その三角州の部分が目的地だな」
「さんかくすぅ?」
「二手に分かれた川と海で囲われた三角形の地形の事だよ、水で囲われてる以上退路の確保はしっかりしておかないとだな……」
最悪僕もカノンも勝てない魔物が現れた場合に逃げられなくて詰む。
丈夫な橋が架かってるならありがたいがどうだろうか……。
「場所以外の情報があんまり無いし、行ってみてからかなぁ……」
「よし!出発だな!?」
という言葉を置き去りに、ほっぺを膨らませたままカノンは草原を駆け出す。
行儀が悪いったらありゃしない。
当然聖剣だけ持って食料袋とかは置き去りだ。
「っていうかあいつ……、5日分の食料半分以上食べやがったな……?」
次から袋をまるごと渡すのはやめておこう……。
僕は軽くなった食料袋の口を縛りながら、頭の中のカノン注意要項に書き足しておく。
カノンはあればあるだけ食べる……と。
広げた地図も丸めて仕舞う。
パンに吸収された口内の水分を取り戻すために水筒の水を飲みながらカノンの後を追う。
魔物はほとんどが森林地帯に生息しているのか、草原や平地ではあまり魔物を見かけない。
途中背の高い草が生い茂る場所があったが、そこは避けて通って来たから魔物が居たかは分からない。
体感2時間くらい歩いて川に着く。
道なりに来たからこの先は対岸まで石の橋が架かっており、さらに道が続いている。
そのまま進めば他の国にまで行けるらしい。
だが用があるのは魔物の巣窟だ、その島にもこんな立派な橋があることを願いながら川の下流の方へと進む。
川の深さを見た感じ、多分川の中央辺りは泳がないと渡れなさそうに見える。
流れも特に緩いわけでもなく、前の川のように簡単に歩いて横断できるなんてことは無さそうだ。
もし橋が無かった時はどうしようか……。
と考えながら歩いていると川の分かれ目まで到着した。
「あそこか……、川幅は大体40m強くらいか?」
学校のプールより全然長い。
頑張れば泳いで渡れなくもなさそうだが、ちゃんとした退路を確保するっていう点においてもやっぱり橋は欲しい……。
対岸を眺めながら川沿いに歩いていると、川下の方から声が聞こえた。
「あっ!お~い!!レイもようやく着いたか!!!!!」
その方を見るとカノンが川下から手を振りながら走ってきている。
僕もとりあえず手を振り返しておいた。
僕の前まで来ると急ブレーキで停止する。
「この先渡れそうな場所無かったんだけどどうする!!?この距離だと多分ジャンプしても飛び越えられない!!!」
多分も何もどう考えても無理だろ。
だが、どうやら海の方まで行って確認してきてくれたらしい。
実は橋が無い状態で先に泳いで向こうまで渡ってたらどうしようかと内心心配していた。
「うーん……、一応川上の方にちょっと戻ったところにある橋を渡って反対側も確かめてみようか」
「わかった!」
と、この後反対側も確認してみたが、橋らしきものは無かった。
「もう一回見てくる!」と、カノンは再び来た方向の川沿いに走って行ったが、何度見ても無いものは無いだろう。
単純に走る口実が欲しいだけか……?
「さて、どうしたものかな……」
僕はどうやって川を渡ろうかと、丁度いい感じの石に腰掛け頭をひねる。
評価・ブックマークよろしくお願いします。